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(33)小児の重症疾患治療 岡山大病院小児科 塚原宏一主任教授(小児医療センター副センター長)

塚原宏一主任教授

中四国全域から患者受け入れ

 ―感染症が流行する季節になりました。

 塚原 ウイルスや細菌などの病原微生物はせきやくしゃみで拡散します。マイコプラズマ、インフルエンザ、RSウイルスなどがそうです。一方、乳幼児は何でも口に入れたりなめたりしますが、ロタウイルスやノロウイルスの病原微生物は口を通して体内に入ります。予防するには、水道水とせっけんでの手洗いと症状のある人のマスク着用が大事です。タオルの共用は絶対にやめてください。

 ―感染症が重症化すると命に関わることがあるそうですね。

 塚原 これまで健康だったお子さんでも、インフルエンザ、ロタ、ヘルペスといったウイルス感染症で重度の意識障害や難治けいれんを引き起こす急性脳症を発症することがあります。当院は、岡山県内外から年間約20人の重症脳症のお子さんを救急車やヘリコプターで受け入れています。

 ―急性脳症にはどういう治療をしますか。

 塚原 EICU(高度集中治療室)で人工呼吸、脳低温療法をしながら、ステロイド、抗酸化薬、抗脳浮腫薬、抗けいれん薬などを投与します。子どもは大人よりも厳格な全身管理が求められますが、こうした治療ができるのは恐らく中四国では当院だけであろうと思います。私の前任の教授である森島恒雄先生(現・岡山ろうさい病院長)が厚生労働省のインフルエンザ脳症研究班を指揮して、治療と予防体制の確立に努めた結果、国内で20年前は約30%もあった死亡率は5、6%にまで下がっています。

 ―子どもには腎臓の病気も多いそうですね。

 塚原 急性で重症化するものとして溶血性尿毒症症候群が挙げられます。貧血や血小板減少、急性腎不全が起こるため、入院が必要になります。その多くは腸管出血性大腸菌O157などの毒素が原因なので、生肉や生ホルモンを食べさせないようにしてください。慢性の病気では慢性腎炎とネフローゼ症候群が代表的です。検尿異常や体のむくみで見つかることが多いです。他に、ぼうこうから尿管へ尿が逆流する病気があります。

 ―小児科が扱う病気は実に多様です。

 塚原 対象疾患は、プライマリーケア・救急、感染・免疫、呼吸・循環、血液・腫瘍、消化器・栄養、腎臓・尿路、内分泌・代謝、新生児・遺伝、神経・心理、集中治療・麻酔の10領域に分かれます。さまざまな難しい病気を治療できるよう、2012年に院内に小児医療センターを開設しました。小児科、小児外科、小児神経科、小児循環器科、小児血液・腫瘍科、小児歯科、小児麻酔科、小児放射線科などが連携し、他院では治療が困難な患者さんを中四国全域から受け入れています。

 ―大学病院の総合力を発揮しているわけですね。子どもの心疾患は国内屈指の実績があると聞きます。

 塚原 大月審一教授が率いる小児循環器科によるカテーテル治療は年間300例を超え、国内トップレベルです。小児科、心臓血管外科、小児麻酔科、小児放射線科などが協力し、綿密な治療計画を立てて治療に臨んでいる成果でもあります。

 ―小児血液・腫瘍科ではどんな治療をしていますか。

 塚原 白血病やリンパ腫、固形腫瘍では、オーソドックスな多剤併用化学療法だけでなく、病気を発症させる遺伝子変異を見つけ、そこを狙い撃ちする分子標的治療を行っています。造血幹細胞移植は年間15~20件行っています。一部の固形腫瘍には、津山中央病院が実施している陽子線治療が有効です。当院の嶋田明准教授が月に一度出向き治療に携わっています。

 ―最後に予防接種の意義を教えてください。

 塚原 集団感染の主体であるウイルス感染症は、インフルエンザやヘルペスなどを除き特効薬がありません。病院で診断できる感染症は一部にすぎません。だからこそ、感染リスクを軽減するための予防接種が重要です。そんな中、近年、ジフテリア・百日ぜき・破傷風・ポリオの4種混合、水痘(水ぼうそう)、B型肝炎ウイルスの各ワクチンが定期接種化されたことは喜ばしいことです。予防接種のおかげで国内の乳幼児死亡率は大きく低下しました。私もここ10年で、敗血症や髄膜炎、入院が必要な急性肺炎、急性腸炎などが激減したことを実感しています。

     ◇

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町2の5の1、086―223―7151)

 つかはら・ひろかず 兵庫・甲陽学院高、京都大医学部卒。同大病院、福井赤十字病院、福井大病院講師などを経て、2010年、岡山大病院准教授に就任。14年から主任教授、小児医療センター副センター長。日本小児科学会指導医、日本感染症学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本周産期新生児医学会指導医、日本小児科医会認定「子どもの心」相談医など。日本小児科学会代議員、日本小児感染症学会評議員・理事、日本小児腎臓病学会評議員・理事などを務める。55歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年12月07日 更新)

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