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(1)言語聴覚士 川崎医療福祉大学副学長・医療技術学部教授 種村純

川崎医療福祉大学1期生の宮澤秀行さん。青木内科小児科医院(岡山市南区)通所リハビリテーション主任として、言語や飲み込みの障害に対する訓練に当たっている

種村純副学長・医療技術学部教授 

失語症者の生活支援

 言語聴覚士は脳血管障害や認知症、発達障害などさまざまな原因で出現する言語、聴覚そして飲み込みの障害に対するリハビリテーションを担当しています。

 病院での治療が終了し、在宅生活に戻った言語障害者を支えるには介護や福祉の現場で言語聴覚士がもっと活躍する必要があります。しかしながら、ほとんどの言語聴覚士は病院に勤務し、介護の分野で働くのは少数なのが現実です。

 川崎医療福祉大学ではこれまで700人近い言語聴覚士が巣立ち、多くは医療機関で働いていますが、近年は介護・障害福祉分野に進む学生も増えています。

 今回は当大学が行っている失語症の地域支援の研究を紹介します。

 失語症は脳血管障害やその他の脳の疾患で出現する中高年に多い言語障害です。厚生労働省の研究事業の一環で、介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)など岡山県内の介護保険関連の404施設を調査したところ、利用者総数2万1207人のうち1671人(8%)が失語症で、要介護度は重度な方が多いという結果でした。

 介護保険施設の利用者は原則的に65歳以上ですが、40歳を超えると失語症はしばしば出現します。そこで全国の障害者福祉施設を調査したところ、27%の施設に失語症者がいました。利用しているサービスは機能訓練・生活訓練、就労移行支援、就労継続支援B型(授産的活動)でした。

 失語症者は生活上、さまざまな困難に直面しています。失語症は耳は聞こえますが話の意味が分からなくなります。声は出せるのに言いたいことが言えません。本人が言い間違いに気づかずに、そのまま話が進んでしまうことさえあります。時間の約束など、数字の言い間違いも多く出てしまいます。その誤解を解くために失語症者の意図を説明するのはとても難しいのです。このようなことが、家族・友人・職場の人間関係に支障を来してしまいます。

 失語症の当事者と家族の会の全国組織である失語症協議会に当大学も協力して全国の失語症者と家族496人の生活上の困難について調査しました。その結果、「病気になる前に比べて生活しづらくなった」と回答した方は86%に達しました。どのようなことに困っているのかを聞くと、(1)外出・公共機関の利用(2)マスコミやサインの理解(3)会話・コミュニケーション(4)名前、年齢、住所の伝達―に大別されました。

 電話や手紙などの読み書き、家庭や社会での役割を果たすことなどが困難なほど生活のしづらさを強く感じていました。家族は経済的な問題と生活上のストレスを訴えていました。

 こうした失語症のリハビリについては個別訓練と集団訓練を行います。同時に介護職員とともに生活支援も行います。会話の時間を多く設け、失語症者とのやりとりでは絵や文字を用いて伝えます。介護職員にも一人一人に対応した伝達方法を実行してもらい、日常に戻る支援を言語聴覚士が行っています。

     ◇

 医療福祉人には、お金や物より人間を大切にし、差別のない精神を持って弱い立場の人たちに支援の手を差し伸べ、豊かな心と教養を身につけ、そして人として恥ずかしくない心構えを持つことが求められます。今回の企画を通して、地域で活躍する医療福祉人がどのような役割を担い、どのように貢献しているのかを紹介します。

 (川崎医療福祉大学副学長 小野寺昇)

 川崎医療福祉大学(086―462―1111)

 たねむら・じゅん 早稲田大大学院文学研究科心理学専攻修士課程、明星大学大学院人文学研究科心理学専攻博士課程修了。長野、静岡県の病院に勤務したあと1996年から川崎医療福祉大教授、2015年から副学長。日本高次脳機能障害学会会長、日本言語聴覚学会会長など歴任。岡山県言語聴覚士会会長、全国リハビリテーション学校協会副会長。東京都出身。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年01月16日 更新)

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