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(35)冠動脈慢性完全閉塞のカテーテル治療 心臓病センター榊原病院 廣畑敦 循環器内科主任部長

廣畑敦循環器内科主任部長

硬い詰まり広げる技術力

 ―動脈硬化で狭くなった心臓の冠動脈を広げるカテーテル治療を専門とされています。近年は、難易度の高い症例にも積極的に活用しているそうですね。

 廣畑 冠動脈が完全に詰まってしまう「慢性完全閉塞(へいそく)(CTO)」という症例です。当院では、冠動脈のカテーテル治療を年間約1200例行っていますが、そのうち約150例がCTOです。

 突発的に血管が詰まる急性心筋梗塞と異なり、ゆっくりと時間をかけて詰まり、3カ月以上そのままの状態が続くため、症状がすぐには出ず気付きにくいのです。詰まった部分の周辺に迂回(うかい)路となる細い血管ができるので、血流は維持されますが、心臓に送られる血液の量が減り、運動後の息苦しさや息切れなど狭心症と同じような症状が現れます。

 病院を受診した時には、症状が出てから数年~10年たっていることもよくあります。

 ―CTO治療はなぜ難しいのですか。

 廣畑 血管内に石が詰まっているのを想像してみてください。詰まった部分がとても硬いのです。通常、狭くなった血管を広げるには、まず足の付け根などの血管からカテーテルを患部まで挿入するのですが、その際、カテーテルの道筋となるガイドワイヤがそもそも通りにくいのが難点です。ワイヤが滑って血管を傷つけるリスクが高く、医師の経験や技術力に左右されるので、どの施設でも受けられるわけではありません。通常は、開胸して人工的に迂回路を作るバイパス手術が第一選択となることも多いです。

 ―CTOのカテーテル治療の具体的な手順を教えてください。

 廣畑 まずワイヤが最も通りやすいルートを探ります。画像診断などで事前に検討し、足の付け根や手首など最適な位置から挿入します。特に難易度の高い症例では、ワイヤを2カ所から挿入し、詰まりの両方向から貫通させます。

 次に、カテーテルを挿入してバルーンで血管を広げるのですが、詰まりが硬すぎる時は先端がダイヤモンドチップで覆われた「ロータブレーター」で、硬い部分を削ります。そして最後に「薬剤ステント」を留置することが欠かせません。

 ―薬剤ステントはどのようなものですか。

 廣畑 表面に免疫抑制剤が塗られており、血管内で約半年間、薬剤が溶け出して患部が再び詰まるのを防ぎます。2004年に国内で使われるようになってから、CTOのカテーテル治療成績が劇的によくなりました。従来のステントでは、20~30%の確率で血管が再び狭くなっていましたが、薬剤ステント導入で3~5%に下がっています。

 ―カテーテル治療の今後の見通しは。

 廣畑 バイパス手術と比べ、患者さんの体への負担が少ないことが最大のメリットです。近年はステントの質がさらに向上しており、治療から5年後の死亡率も、バイパス手術と差がなくなってきています。血栓予防薬を飲み続けなければならないというデメリットもありますが、ステントの改良によって、最近では術後半年くらいで薬の量を減らせるようにもなってきています。

 ―CTO治療後に注意することはありますか。

 廣畑 動脈硬化を引き起こす大きな要因は、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの生活習慣病です。生活習慣そのものを改善させないと、せっかく治療しても意味がありません。血圧や血糖値、コレステロール値をきちんと管理するよう、患者さんだけでなく家族にもお話をします。かかりつけ医とも連携し、患者さんの症状を再び悪化させないことが、内科医としての役割だと思っています。

     ◇

 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町2の5の1、086―225―7111)

 ひろはた・あつし 香川県大手前高、岡山大医学部卒。岡山大病院、津山中央病院、米国スタンフォード大循環器内科などを経て、2006年から心臓病センター榊原病院に勤め、09年から現職。医学博士。日本内科学会認定内科医・指導医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。46歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年04月04日 更新)

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