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総合力で地域密着の急性期病院に 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)猶本良夫院長

猶本良夫院長

医療スタッフと介護、福祉施設のスタッフがコミュニケーションを深め合う「医介連携の会」=3月8日、川崎医科大学総合医療センター

 ―1日付で病院長に就任されました。抱負を聞かせてください。

 猶本 川崎病院は川崎祐宣先生が「医療は患者のためにある」との理念のもとに設立され、80年近くになります。それが2016年12月に新築移転して川崎医科大学総合医療センターと名称を変えました。長い伝統を守りながら、その名にふさわしい、総合的な医療を提供できる「地域に密着した急性期病院」としての機能を整えていかなければなりません。大変な重責で非常に緊張しています。

 ―総合的な医療とはどのようなものでしょう。

 猶本 当院にはもともと、さまざまな職種が協力し合って仕事をしていくという組織文化が根付いています。リスクの高い手術や救急医療では医師や看護師、臨床工学技士らがチームを組んで同じベクトルに向かわなければ安全で質の高い仕事はできません。例えば外科ですが、多くの大学や病院では臓器・機能別に細かく分かれています。専門性の追究という点では意味があるのかもしれませんが、患者さん一人一人の病態は多様で、決して一つの専門分野で対応できるものではありません。当院は総合外科を設けていて、消化管や呼吸器、心臓などのスペシャリストたちが機能的なチーム医療を実践しています。在宅医療であっても薬剤師やソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど多職種の知恵や技術が必要です。全ての分野でチーム医療が大切だと考えています。

 ―総合的な医療に加え、さまざまな疾患に対応できる総合医の育成も求められています。

 猶本 現代の医療は高度化が進み、あまりにも専門分化しすぎています。これは医療の進歩に役に立ってはいますが、中には「専門以外は診療できない」という医師もいて、大きな課題、ジレンマでもあります。当院に来られる患者さんは、さまざまな病気を持っている上に胃がんや肺がんになったような方が多く、いろんな分野に精通していないといけません。

 総合医を育成するという意味では、当院は適していると考えます。「断らない救急」を実践し、さまざまな疾患を持った患者さんに対して、研修医や上級医、スタッフが一緒になって診断と治療を進めています。救急車は月間350台から400台、年間で言うと3500台から4千台を受け入れます。それに加えてウオークインといって、歩いてこられる患者さんもいて、相当な数を経験することになります。

 ―ご自身もトータルな視点からの医療を実践してこられました。

 猶本 私は食道がんが専門ですが、患者さんの職業やご家族のこと、退院後の地域医療など、さまざまな要素を勘案しながら診断し、治療を組み立てています。われわれは以前から「病気だけでなく、その人の生活・人生を診る」という方針を貫いています。もともとの外科川崎病院がそうであったように、また、川崎病院がそうであったように、地域に密着した急性期病院として、全人的医療に取り組み、トータルな視点を持った医師を育成することが大きな目標です。

 ―総合医療センターでは「救急医療」、がん治療などに対する「高度専門医療」、患者の早期社会復帰を図る「リハビリテーション」を3本の柱に据えていますね。

 猶本 がん治療には的確な診断と早期発見の努力が求められます。がんが進行していたら化学療法や放射線療法で状態を改善し、または手術に持って行けるようにして、治る確率を上げることを重視しています。再発した場合は、なるべく良い状態が続くよう薬物治療を施すなど、最大限のリソース(人的、物的な資源)を集めた医療に努めています。がんの根治は困難ですが、免疫チェックポイント阻害剤という新しい薬物の登場で余命が長くなるということが、全てではありませんが実現できるようになってきました。それでも難しい場合は、その方にふさわしい納得のいく最期を迎えていただけるような環境が整った緩和ケア病棟もあります。

 高度専門医療について言えば、当院は手術支援ロボットや最新の放射線診断機器を導入したり、IVRセンター(血管撮影装置を用いた画像下治療センター)を整備するなど高度医療を担える体制は整っていると思います。ただ、複雑な合併症を持った患者さんに的確な治療を施し、元気になってもらうということも高度医療だと思います。在宅を担っている先生方とも緊密に連携をしながら、ベストの医療で患者さんに社会生活に復帰していただく。そこに最大限の努力を注ぐと言うことも非常に重要なことでしょう。

 ―リハビリについてはいかがでしょうか。

 猶本 関連施設の川崎リハビリテーション学院や川崎医療福祉大学から多くのスタッフを輩出してもらい、知識や技術が豊富でとても助かっています。回復期リハビリテーション病棟は54床です。国の制度上、入院期間に限りはありますが、地域の医療機関や介護施設などと連携を図る地域医療連携室がフル稼働して、切れ目のないリハビリにつなげています。

 当院では、介護施設や福祉施設の方と交流する「医介連携の会」を年に数回開いています。これは、他の病院にはない取り組みです。現在31施設に参加をいただき、3月8日の医介連携の会には院外から33人、院内から31人の計64人が参加しました。ケアマネジャーともコミュニケーションが構築できているので、地域の医療・介護情報が入りやすく、患者さんを地域にお返しする際にすごく役に立っています。

 ―病院の将来像について考えを聞かせてください。

 猶本 当院には二つの顔があります。一つは地域に密着した急性期病院で、どれだけ地域に寄り添えるかが大きな課題です。もう一つは大学付属病院としての教育・研究機関です。これが一般の急性期病院とは違う点でしょう。医師や看護師、リハビリスタッフなど全ての職種を目指す学生がここに集います。そういう人々を育てながら、地域の人々のための安全・安心の医療を提供していくのが、当院に与えられた使命だと考えています。

     ◇

 川崎医科大学総合医療センター(086―225―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年04月17日 更新)

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