文字 

(7)女性の視点に立ったリウマチ治療 倉敷スイートホスピタルリウマチセンター内科医 藤森美鈴

グラフ1

グラフ2

藤森美鈴内科医 

 関節リウマチは初回でお話ししましたように30~50代の女性に多い病気で、男女比はおよそ1対4です。では、どうして女性に多いのでしょうか。それには女性ホルモンが大きく関わっています。女性ホルモンは、自己抗体(自分の身体の組織を攻撃してしまう抗体)の働きや、免疫反応を促すサイトカインなどの物質を活性化させやすいと考えられています。この女性ホルモンの分泌量が多い時期にリウマチの発症が多くなっています=グラフ1

 もう一つ、妊娠・出産も自己免疫反応と関わりがあると考えられます。たとえば、妊娠中は、男性の細胞を異物と認識して排除してはいけませんから、免疫の働きが抑えられます。従って、妊娠中はリウマチの症状は一般的に軽くなると言われています。そして、出産後にはこの抑えられていた免疫が戻るわけですが、これが急激に行われると、反動で免疫の働きが一気に高まってしまうことがあります。産後にリウマチが悪化しやすいのはこのためです。女性の免疫システムは、男性よりも複雑でデリケートだと言えます。

 では、女性の視点に立ってリウマチ治療についてお話ししていきたいと思います。まず、妊娠・出産についてです。「リウマチでも普通に子どもが産める?」「使っている薬は赤ちゃんに大丈夫?」「妊娠・出産でリウマチが悪くなったらどうしよう」…など、悩みや不安は多いと思います。まず第一に、リウマチの病気の勢いが強いと妊娠しにくいので、適切な治療でリウマチをしっかりコントロールすることが重要です。

 薬の赤ちゃんへの影響は時期によって異なり、妊娠初期(14週未満)は器官が形成される時期で赤ちゃんの体の構造への影響(催奇形性)が問題となり、それ以降は成長への影響(胎児毒性)が問題となります。

 リウマチ治療の中心的な薬であるメトトレキサートは流産・奇形のリスクがあるため、妊娠を計画する場合は3カ月前から内服を中止するよう推奨されており、授乳中も使用禁止です。妊娠後期(28週以降)は、いわゆる痛み止めの薬は使えません。アザルフィジンという抗リウマチ薬は妊娠中使用でき、ステロイドのプレドニゾロンという薬も妊娠中のリウマチのコントロールには有用ですが、それ以外の薬に関しても、基本的には有益性投与(治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に投与すること)という考え方で、必要に応じて使用可能なものが多いです。

 妊娠前にリウマチをしっかり落ち着かせたいとか、産後にリウマチが悪化したという場合には、生物学的製剤は強い味方です。主治医の先生とよくご相談のうえ、薬をうまく使って、妊娠・出産という一つのライフイベントを乗り越えていきましょう=

 さて、女性で気を付けていただきたいことは、特に更年期以降の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。リウマチ患者さまの半数近くが骨粗鬆症を合併しており、その発症要因として、(1)全身の炎症(2)治療で用いるステロイド(3)痛みで動けないための体力の低下などが関与しています。特に閉経後の女性は、女性ホルモンの分泌が減少するため、急激な骨量減少を来します=グラフ2。そのため、大腿骨頸部や脊椎骨の骨折をきたすことがあります。骨折予防には定期的に骨塩定量などの検査を受けることも重要です。

 女性は日常生活面で妊娠・出産・育児・介護などの大きなライフイベントに関わることが多く、心身の状態が不安定になりがちです。女性ならではの悩みを抱えておられる患者さまに対して、女性の立場で患者さまの訴えを伺い、適切な治療と助言ができればと思っております。

 次回は関節リウマチの合併症管理とトータルマネージメント(集学的診療)についてお話させていただきます。

     ◇

 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 ふじもり・みすず 兵庫県・姫路西高校、高知医科大学医学部卒。岡山大学医学部第三内科などを経て2009年から倉敷広済病院(現倉敷スイートホスピタル)。日本リウマチ学会評議員・専門医・指導医、日本内科学会認定内科医、総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年05月09日 更新)

ページトップへ

ページトップへ