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(8)メディカルイラストレーション 川崎医療福祉大学医療福祉デザイン学科准教授 横田ヒロミツ

横田ヒロミツ准教授

生命を救うために描く

 生命を救うために描かれるイラストがあると知ったのは東日本大震災の直後でした。それまで25年間、広告や出版のイラストを生業(なりわい)としていた私にとって、テレビに映し出される震災の惨状から、もはや絵などを描いている場合ではないという思いを抱いていました。被災者を救助し、その命を救う人々を眩(まぶ)しく感じたものです。ちょうどその頃です。「川崎医療福祉大学の医療福祉デザイン学科で、メディカルイラストレーション教育を始めるから手伝ってくれないか」、という電話が入ったのは…。

 学術論文や教科書、プレゼンテーション資料に載せる臓器や骨格、手術手技の手順などを分かりやすく表現し、学術や教育面で貢献する絵をメディカルイラストレーションといいます。ただ、医学医療の基礎的知識がないと描けない特殊な仕事でもあります。

 絵を描くことしかできない私にも、人の命を救う仕事に寄与できることに魅力を感じ、今まで仕事で使ってきたコンピューターグラフィックス(CG)の指導というポジションで、メディカルイラストレーション教育に加わることになりました。

 メディカルはサイエンスの1ジャンルです。サイエンスは数かぎりない研究の積み重ねによって発展してきました。研究の都度、その結果を記録し伝えなくてはなりません。そのために必要なのは、文字と、図(絵)や写真などの視覚的伝達ツールです。今ではイラストというとアニメをイメージする人が多いようですが、もともとイラストレーションとは解説のための絵という意味です。

 医学の発展に視覚的伝達は欠かせません。文字だけでは伝えきれないことが多々あります。特に医学は専門性が高く、描く対象も有機的で複雑なためイラストレーションが不可欠です。描写力や医学医療の知識はもちろんのこと、医学医療の一端を担っているという覚悟、あくなき探求心や向上心が必要です。また、依頼された課題を理解し、どうしたら分かりやすく伝えられるのか、自分で考える能力を鍛える強い意志が求められます。難しくもありますが、やりがいが持て、知的探究の楽しさも感じられる仕事です。

 私は学生に対し、「命に向きあい、命を救うために描かれるイラストレーション」であることをまず伝えます。確かに対象が臓器であったりと、絵のモチーフにはなりにくいかもしれませんが「描く意味がある、役割がある、使命がある」と私は強く感じています。

 人の苦しみをやわらげ、命を救うため医学、医療は常に発展を続けています。最新、最先端を求められる世界です。メディカルイラストレーションもそれに呼応するように、手描き、2DCG、3DCG、3Dプリンターと表現手法が広がっています。最新のテクノロジーに興味を持てる好奇心も必要かもしれません。

 メディカルイラストレーションは欧米の医療界では広く認知されていますが、日本は後進国です。最近になって、国内でもようやく光があたりはじめました。昨年12月には「日本メディカルイラストレーション学会」が川崎医科大学を事務局として設立されました。学会は専門性を向上させ、将来的には独自の認定制度を設けることを目指しています。

 川崎医療福祉大学の医療福祉デザイン学科はメディカルイラストレーションを正式に学べる国内唯一の学科です。高い志をもった若人を求めています。

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 川崎医療福祉大学(086―462―1111)

 よこた・ひろみつ 武蔵野美術大学造形学部卒業後、広告デザインプロダクションを経てフリーのイラストレーターに。2012年川崎医療福祉大学特任准教授、13年より現職。日本初のメディカルイラストレーション教育およびコンピューターグラフィックスを担当。日本メディカルイラストレーション学会設立委員、ニューヨークイラストレーターズソサエティ会員。埼玉県出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月05日 更新)

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