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(1)救急車が必要な頭部外傷 倉敷平成病院脳神経外科部長 重松秀明

急性硬膜下血腫(写真左)急性硬膜外血腫

重松秀明脳神経外科部長 

 皆さんのお子さんや家族の方が頭を打った時に、「救急車を呼ぼうか、呼ぶまいか」と迷われることが時々あると思います。

 頭部外傷により脳が損傷を受ける病態は大きく分けて二つあります。一つは外力が直接脳にダメージを与える場合で、「直撃損傷」と言います。器物等で打撲した部位が骨折したり、脳損傷をきたす場合です。特に小児は直撃損傷により頭蓋骨骨折を起こしやすく、骨折に伴い「急性硬膜外血腫」が起こることがあります。急性硬膜外血腫は受傷直後はほとんど症状がありませんが、徐々に意識障害や麻痺(まひ)が発生し救急搬送されることがあります。

 もう一つは「対側損傷」と言います。これは受傷した部位と反対側の脳が損傷した状態です。これに回転性の外力が頭部に加わると、脳表静脈の断裂をきたし「急性硬膜下血腫」が起こります。急性硬膜下血腫は重篤になりやすく、死亡率は55%に達します。最近では中学生が柔道の練習中に投げられ、急性硬膜下血腫で死亡する例が社会的問題となりました。

 頭部外傷を受けた場合に救急車を呼ぶべき症状としては(1)意識レベルの悪化(2)麻痺や失語症の出現(3)嘔吐(おうと)(4)痙攣(けいれん)発作等が挙げられます。急性硬膜下血腫や脳挫傷は外傷直後より意識障害を起こすことが多いのですが、急性硬膜外血腫は発症より数時間して意識障害を起こす例があります。

 しかし、いずれにしても外傷後4時間以上経過して急性期の頭蓋内出血を起こす事は、高齢者以外ではあまりありません。ですから皆さんのお子さんや家族の方が頭を打った時には、4時間は気をつけてあげてください。4時間以内に意識が悪化したり嘔吐する場合には、直ちに脳神経外科があり、頭部CT等の検査が行え、処置が可能な病院の受診をお勧めします。

 また、外力の受け方も頭蓋内出血には大事な要因です。先述のように急性硬膜外血腫は「硬い床に高い所から転落し頭部を直撃した」「バット等の器物で頭を殴られた」時などに起こりやすいと言われています。これに対して急性硬膜下血腫は「柔道で内股をかけられ頭から落ちた」場合などに起こると言われています。また、交通事故を含め、頭部に大きなエネルギーを受けた場合には直ちに頭部の精密検査を受けましょう。

 高齢者では頭部外傷後24時間以上経過して少しずつ脳挫傷をきたしたり、軽微な外傷後1カ月から2カ月経過して起こる「慢性硬膜下血腫」という病態があります。このような場合は一分一秒を争う手術が必要な事は少ないのですが、「最近おじいさんに認知症の症状が出てきた」「左の方に傾く」等の症状があれば、頭部CT等の検査を受けてください。早く診断し治療を開始すれば、ほとんど症状を残さずに回復することもあります。おかしいと感じたら速やかに脳神経外科のある病院を受診してください。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 しげまつ・ひであき 兵庫県・六甲高等学校、岡山大学医学部卒。岡山大学医学部付属病院、尾道市立市民病院、国立岡山病院、住友別子病院、津山中央病院、岡山赤十字病院脳神経外科、岡山赤十字病院玉野分院リハビリテーション科を経て、2016年倉敷平成病院着任。現在に至る。医学博士、日本脳神経外科学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月19日 更新)

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