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地域医療と労働者の健康を守る 岡山労災病院(岡山市南区築港緑町)三好新一郎院長

三好新一郎院長

岡山ろうさい病院が導入した、最新式の術中画像装置「オーアーム」。太い輪の部分は直径が2メートルある。ナビゲーションシステムを組み合わせ、脊柱彎曲症などで精度の高い安全な手術を行う

 ―岡山大学病院呼吸器外科教授から院長に就任されて2カ月が過ぎました。今のお気持ちを聞かせてください。

 三好 病院長は初めての経験なので、大変な仕事だと実感しています。こちらへ来て体重が少し減りました。

 岡山ろうさい病院は、厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構が運営する病院ですので、「働く人たちの健康を守る」というのを理念の一つに掲げています。もう一つが「地域の人々に最適の医療を提供する」で、この二つを大きなテーマとして診療に当たっています。

 ―まずは、「働く人たちの健康を守る」について教えてください。

 三好 かつて戦後の復興期には経済発展に伴う労働災害が多発し、その治療対策が強く求められていました。岡山県においても、当時の労働省に対して岡山労働組合連合会・使用者団体等の労使関係者をはじめとする岡山県民一体の誘致運動が展開されました。その結果、1953年に病院設置が決定され、55年3月に内科、外科、整形外科の3診療科と病床数30の病院として現在地に開設された経緯があります。

 最近では産業構造や職場環境の変化に伴い、新たな健康障害が問題となっています。これら新しい職業性疾患に対応した医療を展開したいと思います。今、政府は新しい働き方を推奨しています。当院でも、例えばがんの患者さんが「病気であっても働き続けたい」と言われるのであれば、われわれは治療と職業生活の両立を支援します。

 ―治療と職業生活の両立支援は、具体的にはどのように取り組んでいくのでしょうか。

 三好 2016年4月に入院、外来、地域のいずれにおいても適切な医療が提供されるよう調整を行う患者サポートセンターを開設しました。ここに配属された3人のメディカルソーシャルワーカーが両立支援に当たっています。主にがんの患者さんが術後、または抗がん剤などでの外来治療中でも仕事ができるようにさまざまな相談に乗り、アドバイスをしています。

 ただ、まだ不十分なところもあって、例えば、岡山産業保健総合支援センター(岡山市北区下石井)などと患者さんの会社とを仲介し、人事担当者や上司らに対して、どういう治療をどんな計画で行い、いつごろ復帰できるのか、復帰に当たってはどんな配慮が必要になるのかなどを話し合ってもらう、といった支援も必要だと考えています。がんだけでなく、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など他の疾患も含めての取り組みです。当院としては、今後の大きな柱にしましょうと、より重点的な目標に掲げています。

 ―病院の特徴はいかがでしょう。

 三好 現在、21診療科、病床数は358床(ICU10、HCU8を含む)、消化器病センターや人工関節センターなど13の専門センターを有していて、良質で安全な医療の提供に努めています。

 4月には、岡山大学病院から脊椎脊髄手術で著名な田中雅人医師が当院副院長に着任し、「脊椎脊髄センター」を開設しました。術中CTとコンピューターによる脊椎ナビゲーションを融合させた、世界的にみても最先端の技術を駆使して、脊柱(背骨)変形の矯正手術などを6月から実施しています。「オーアーム」という術中画像装置を使いますが、当院が導入したのは最新バージョンの機器で、日本に4台しかありません。3次元的に患部を把握することができるので、より正確で安全な手術が可能になります。

 また、形成外科では常勤医が2人体制となりました。病気やけが、手術や生まれながらの異常によって生じた全身のさまざまな形態・機能障害などの他、顔面骨折、眼瞼下垂(がんけんかすい)、皮膚・皮下腫瘍、糖尿病性皮膚潰瘍などの治療に当たります。マイクロサージャリーといって顕微鏡を用いた特殊な手術も行います。また、「乳癌(がん)治療・乳房再建センター」を新設していて、乳腺外科医と共同で乳がん術後の乳房再建などを担っています。

 ―アスベスト(石綿)による健康被害についての治療・研究にも当たっていますね。

 三好 当院には岸本卓巳先生(副院長)がいて、彼が日本のアスベスト関係の研究のリーダーです。ですから、当院は関連疾患にかかる診断・治療、治験の普及において、国の中核的な医療機関としての使命を与えられています。特に岡山ろうさい病院は、全国の労災病院の中でも中心的な研究を任されていて、石綿肺がん診断における石綿繊維と種類に関する研究や、石綿肺の適正な診断に関する研究、中皮腫の的確な診断方法に関する研究などに当たっています。当院には、環境省から受託したアスベスト研究などのために電子顕微鏡が設置されていて、いろんな所から送られてきた検体を調べて診断や研究をしています。

 ―もう一つの理念である「地域の人々に最適の医療を提供する」について聞かせてください。

 三好 院長に就任して強く感じたことの一つに、当院にとって地域の中核病院としての役割がかなり大きいということです。岡山市中心部には大きな総合病院が幾つもありますが、この南部地域には当院しかありません。地域医療支援病院にも指定されていますし、実際、患者さんの多くは岡山市南部や玉野市から来られています。また、西大寺や玉野市などでの市民公開講座や岡南臨床フォーラムなど多くのセミナーを通して地域医療に貢献しております。救急搬送についても、昨年は約2900台を数えました。

 患者さんに向けて病院名を「岡山労災病院」から「岡山ろうさい病院」と平仮名書きとしたのは前々院長ですが、地域の人々に親しみを持ってもらうためだと聞いています。

 ―今後、岡山ろうさい病院が目指すところは何でしょう。

 三好 やはり、繰り返しになりますが、一番求められているのが地域医療だと思っています。当院が中核となり、他の病院、開業医の先生たちと連携を取りながら、さらに最先端の医療も取り入れながら、地域のニーズに応えていきたいと考えています。

 働く人たちの健康を守る岡山ろうさい病院にとって、レベルの高い医療をキープしながら地域医療を支え続けるには、医療人の職場環境の改善も大きな課題だと思っています。地域の人々に最適の医療を提供するためには、医療従事者も心身ともに健康でなければいけません。超過勤務の短縮など、医療従事者の職場環境の改善に取り組みたいと考えています。

     ◇

 岡山労災病院(086―262―0131)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月19日 更新)

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