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(31)がんの放射線治療 岡山中央病院放射線がん治療センター 金重総一郎センター長

高精度の放射線装置の力を最大限に発揮するため、金重センター長(中央)を中心に多職種が医療チームをつくり、治療にあたっている

患者のCT画像などを元に、放射線治療の計画を立てる金重センター長

前立腺(赤い部分)に放射線を照射すると、直腸(緑の部分)にも高線量(黄色い部分)が当たってしまう(写真右)。強度変調放射線治療を行うことで、臓器のいびつな形に沿って高線量を照射することができる(同左)=岡山中央病院提供

積極的に根治と緩和目指す

 がんを「切らずに治す」治療として、放射線治療への注目が高まっている。根治するには体の外側から患部に向けて高線量を照射する必要があるが、かつての照射方法では正常組織にも大きなダメージがあった。だが、治療装置の性能が年々向上し、今では患部にピンポイントで照射できるようになってきている。

 そんな高精度の放射線治療を気軽に受けられる地域の拠点を目指し、岡山中央病院は2012年8月、「放射線がん治療センター」を開設した。前立腺がんをはじめ、肺がんや転移性脳腫瘍などさまざまながんに対し、年間300件を超える治療を行っている。放射線治療をメインに、化学療法を含めた集学的な治療を提供している。

 センター長の金重は「がんは加齢とともに体に起こる変化の一つ」ととらえる。高齢者にとっては、外科手術などがんを根治できても、体の機能を失ったり、体力を落としたりすれば生活の質を大きく損なう。放射線によって、臓器の働きを温存する「体に優しい治療」でありながら、がんを治しきる「積極的な治療」を心掛ける。

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 泌尿器科を主力とする同病院では、前立腺がんの治療件数が多い。放射線は効果があるが、隣り合う直腸など正常組織に高線量が当たると、高い確率で出血などの副作用が起き、治療を難しくしていた。

 その難点を克服したのが、「強度変調放射線治療(IMRT)」だ。

 線量に強弱をつけて照射できるのが特徴で、正常組織には高線量が当たらないようにしたり、がんのいびつな形に合わせて線量を調整したりすることができる。同病院では14年から導入した結果、現在では前立腺がんの中心的な治療となっている。

 肺がんや脳腫瘍に対しては、多方向から一点に放射線を集中させる定位照射の効果が高い。1回の治療は15~20分程度で、4日間の外来治療で済むため、患者にとって負担が少ない。脳腫瘍の場合、脳全体に照射するのと比べ、認知機能が低下するなどの副作用が少ないというメリットもある。肺がんの場合、大きさが5センチ以下でリンパ節転移がないなど適応に条件はあるが、早期がんであれば手術よりも3年生存率が良いという研究データもある。

 金重は「かつての放射線治療は、患部を含む広い範囲に当てるしかなかったが、今では外科手術でがんだけを切り取るのと似た感覚で使えるようになってきている」と言う。

 いずれの治療も、患者自身はベッドに寝たままで、装置があらゆる角度に動いて照射位置を調節する。「画像誘導放射線治療(IGRT)」の機能によって、人間の体や内臓のわずかな動きをとらえ、瞬時に照射位置を補正することができる。

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 センターでは、「積極的な緩和」も重要なテーマに掲げている。がんに伴う痛みを早いうちから取り除いていくことで、たとえ根治が望めなくなった時にも、患者の生活を快適に保てるという。

 金重が緩和に力を入れるのは、痛みをコントロールする専門家である麻酔科医でもあるからだ。「手術後や治療中のがん患者に『痛い』と言われるのは、麻酔科医として悔しいこと」と言う。

 緩和のための照射では、痛みを取り除いたり、腫瘍の大きさを小さくしたりするほか、腫瘍の出血も止められる。根治治療ほど高線量を必要としないので、副作用も少ない。痛みや症状に応じて照射を積極的に取り入れることで、快適に過ごすことが可能になるという。

 日本では、徐々に緩和照射が広まっているものの、十分に活用されているとは言い難い。がん治療で放射線治療を受ける患者は欧米では約60%に上るが、日本では約25%と少なく、緩和照射が増えればこの割合が上がるとされている。

 外科手術の時など「患者の人生の一瞬」に関わることが多かった麻酔科医時代から、がん治療をする放射線科医となり、患者の人生そのものに寄り添うという意識に変わった。だからこそ、「緩和照射をさらに広めて、患者が普通の暮らしを送る手助けをしたい」という思いを強くしている。

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 放射線治療は、医師一人の力では完結しない医療だと金重は言う。最大の効果を発揮するには、医療チームの力を結集することが欠かせない。

 放射線科医が方針や計画をたて、装置の管理をする医学物理士や照射を担当する放射線治療技師とともに検討を重ねる。放射線治療への不安を訴える患者には、なるべく長い時間を割いて丁寧に説明するが、その際は看護師や医療ソーシャルワーカーらの存在も重要だ。

 さらに長期にわたるがん患者の治療を支える地域の病院・診療所にも目を向け、大きなチームとして連携を深めている。「センターが、この地域におけるがん治療のとりでの一つとなることを目指す」。金重の決意は固い。

 (敬称略)

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 岡山中央病院(岡山市北区伊島北町6の3、086―252―3221)

治療中の日常生活は 
患部刺激せず直射日光注意


 放射線治療は、数日間連続で外来に通院して、照射を受ける必要がある。その期間中、基本的には普段と変わらない生活を送ることができるが、いくつかの点に注意しなければならない。

 治療中の患者の皮膚には、放射線の照射位置を示す専用のマークが付けられており、これを消さないようにするため、入浴中にこすったり、かいたりすることは避ける。

 放射線を当てた部分の皮膚は、日焼けしたように赤くなったり、かさかさしてかゆくなったりと、治療の経過に応じて変化するので、なるべく刺激を与えないことが大切だ。

 患部を締め付けるような服装は避け、外出時は直射日光に当てない方がよい。入浴時のお湯は、できるだけぬるめに。治療部位に塗り薬や化粧水などを付ける時は、必ず担当医や看護師に相談する。

 かねしげ・そういちろう 岡山高、川崎医科大医学部卒。京都大医学部付属病院、倉敷中央病院などを経て2013年9月から岡山中央病院放射線がん治療センター長に就任。麻酔科標榜医、日本医学放射線学会放射線科認定医、日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医。39歳。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月17日 更新)

タグ: がん岡山中央病院

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