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(4)高齢者の転倒による骨折 倉敷平成病院整形外科部長 松尾真二

左上から(時計回りに)大腿骨近位部CT、大腿骨手術後 エックス線写真、脊椎椎体骨折(多発性)MRI、脊椎椎体骨折なし MRI

松尾真二整形外科部長

 高齢者は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や加齢などで骨がもろくなっているため、日常生活における転倒や転落などの比較的小さなケガでも骨折を起こしやすくなります。

 高齢者に起こりやすい骨折の部位は、股関節近くの大腿骨(だいたいこつ)近位部骨折、脊椎(背骨)の椎体骨折、肩関節近くの上腕骨近位部骨折、手首の橈骨(とうこつ)遠位端骨折の4カ所です。

 それらの骨折の中でも入院を長期間必要とし、介護を要する状態につながりやすい骨折が、大腿骨近位部骨折と脊椎椎体骨折の二つです。

 大腿骨近位部骨折は股関節近くに痛みが生じて歩けなくなるので、救急車を必要とすることが多くなります。骨折はズレが少ない場合でも早期離床を行うためにほとんどの人に手術が必要となります。骨折の場所やズレ方によって、骨折部を金属でつなぎとめる骨接合手術や、股関節にある大腿骨頭を金属等で作られた人工骨頭に取りかえる手術などがあります。手術後リハビリを行っても、杖(つえ)や歩行器などの補助具を使用した歩行能力は骨折前の歩行状況より低下することが多く、介護を要する状態になる割合も高くなります。

 脊椎の椎体骨折は、主に尻もちをついたときに椎体が圧迫されてつぶれることで発生します。脊椎の中でも骨折の起きやすい場所は、背中から腰にあたる胸椎と腰椎の移行部位です。多くは体幹をコルセット装具などで固定して骨折が癒合するのを待ちますが、変形や短縮は残ります。脊椎は多数の椎体が積み重なっているので、転倒や重量物を持ち上げたことなどにより複数個の椎体が次々と骨折を起こす可能性があります。つぶれによる変形が多発的に発生すると、背中が丸くなる脊柱変形が進行することや背中の疼痛(とうつう)が徐々に強くなっていくことにより活動性が制限されて、介護を要する原因になります。

 これらの高齢者の骨折は住宅内での日常生活中の転倒で起こることが約半数を占めるため、屋内の床や階段での転倒・転落事故の予防が大切になります。対策として、床を薄手のカーペットなどで滑りにくくしたり、整理整頓をしてつまずきそうなものを置かないようにしましょう。また、滑りやすい靴下やスリッパははかない方が良いでしょう。階段・廊下・玄関などに「手すり」を設けることや、「明るい照明」「足元灯」をつけることによって転倒事故を防止しましょう。

 また、普段から適切な運動をすることも転倒予防に重要です。筋力トレーニングや歩行練習・バランス運動などをグループで行ったり、個別指導を受けてから運動をすると良いと思います。

 特に、骨粗鬆症はいろいろな部位の骨折の危険性を増大させます。さらに前述した大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折などの骨折を経験した方は、骨折治療後に重ねて別の部位を骨折するリスクが高い状態にあるため、積極的に骨粗鬆症の検査や治療をお勧めします。

 転倒などによる骨折を繰り返し起こすことにより、寝たきりなど介護を要する状態になる可能性が高まります。1度骨折を起こしてしまっても新たな骨折を防ぐことが重要となるので、転倒予防や骨粗鬆症の治療などを継続して行いましょう。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 まつお・しんじ 津山高校、札幌医科大学医学部卒。札幌医科大学付属病院、旭川厚生病院、JR札幌病院などを経て2016年より倉敷平成病院に勤務。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月07日 更新)

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