文字 

(5)肺疾患と健康寿命 COPDを予防しよう 倉敷平成病院呼吸器科部長 矢木真一

呼吸器科での診療風景。健康寿命を延ばすためには、COPDの予防が大切だ

矢木真一呼吸器科部長

 外来で、患者さんに「漫画『サザエさん』の磯野波平さんの年齢は?」と聞くと、「60から70歳ぐらいかな」と答える方が多いのですが、「マスオさんと一緒に会社に行ってますね」と言うと、「あれ?」となります。波平さんの設定年齢は54歳で、今ならまだ現役です。ちなみにフネさんは50歳前後という設定です。サザエさんの連載が始まった昭和20年代は平均寿命がようやく男女とも60歳を超えるかどうかと言った時代で、サザエさんは当時の年齢感を今に伝えてくれている作品だと思います。

 その後、昭和30~40年代から日本人の平均寿命は飛躍的に伸び、2016年版の世界保健統計によると83・7歳(男性80・5歳、女性86・8歳)で、世界一の長寿大国となりました。しかし、最近はただ長生きするだけが良いことなのか? という観点から健康寿命が注目されています。

 健康寿命の定義は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であり、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。日本は健康寿命も世界一なのですが、平均寿命の伸びに追いついておらず要介護状態の期間が長くなってきているのが問題です。

 ちなみに岡山県の平均寿命は10年の統計で男性79・77歳で全国15位、女性86・93歳で8位と上位に付けていますが、健康寿命の平均は男性69・66歳で全国41位、女性73・48歳で同29位と健康寿命が短く、男性は約10年、女性は約13年半ほど要介護状態で余生を過ごす事になります。

 健康寿命の短縮原因として「不健康な食生活」「高血圧」「喫煙」「肥満」「糖尿病」が挙げられます。これらの生活習慣は脳卒中のリスクファクターであるため、脳梗塞・脳出血で要介護・寝たきりになる確率が上がります。

 この中で喫煙はCOPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)を引き起こし、呼吸困難感による活動性の低下から健康寿命の短縮の原因となります。COPDは思いっきり息を吐くときに十分息が吐ききれなくなる病気を総称して言います。具体的には肺気腫や慢性気管支炎が該当し、肺気腫の患者さんが肺炎になると治癒するにしても、肺気腫がない人と比べて倍ぐらいの期間が必要になり、治癒が遅れるのに伴い死亡率も上がります。

 肺炎を起こすと治っても呼吸障害を残すことがあり、特にCOPDを併発している人は肺炎や気管支炎の罹患(りかん)を機に呼吸障害が悪化し介護度が上がることがよくみられます。そのために肺炎の予防が必要となりますが、そのためには、うがい・手洗い・マスクといった病原菌の侵入を防ぐことや、口腔(こうくう)内衛生の維持・歯(入れ歯)のメンテナンスが挙げられます。

 それに加え肺炎球菌ワクチンの接種もお勧めしたいところです。テレビなどで宣伝しているワクチンは23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス)というワクチンで5年間有効です。14年から定期接種になったので65歳以上で5の倍数の年齢の方は接種費用の減免を受けることができます(対象年齢でなくても65歳以上なら自費で接種可能です)。最近は肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー13)も認可されておりニューモバックスと比べ免疫をより効率よく誘導できるようになっています。減免制度がなく1万2千円程度と高価ですが、お財布に余裕があるならニューモバックスと併用しておきたいワクチンです。

 病院に行かないことを自慢する方がいますが、うまく病院を使って病気を予防して、健康寿命を伸ばすことがこれからさらに重要になると思います。

     ◇

 倉敷平成病院(086―427―1111)

 やぎ・しんいち 兵庫県立龍野高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学付属病院、財団法人淳風会倉敷第一病院、川崎医科大学付属川崎病院呼吸器内科を経て、2010年から倉敷平成病院で勤務。総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、日本呼吸器学会内視鏡学会専門医等。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月21日 更新)

ページトップへ

ページトップへ