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(1)小児がんとは 倉敷中央病院小児科部長 今井剛

月1回開催の勉強会「We Can Do It!」。多職種で意見交換して、よりよい小児がん医療を生み出している

今井剛小児科部長

 「子どももがんになるの?」

 一般の方々から受ける最も多い質問です。「小児がん」は、子どもがかかる悪性腫瘍(がん)の総称です。がん全体の1%にも当たらないくらいまれですが、5歳以降の子どもにおいて、事故など病死以外の原因を除けばがんが死亡原因の1位となります。わが国では年間2千~2500人の子どもが小児がんと診断されています。子ども1万人に約1人の割合です。また、10代の未成年者に発生するがんの多くが小児がんと診断されています。

 小児がんには大きな特徴があります。それは化学療法、放射線療法がとてもよく効く、ということです。過去40年の間に小児がんの治療は目覚ましく進歩し、外科的治療、放射線療法、それに化学療法を加えた集学的治療によって、小児がんと診断された子どもたちの70~80%は病気に打ち勝って生存できるような時代になりました。

 診断後、治療は約6カ月から1年間行われます。免疫力の低下に伴う発熱や、吐き気、脱毛などの副作用が次々に現れ、子どもたちにとって闘いの始まりです。治療を乗り切るためにも、幼稚園児以上であればご本人にも病気の告知を行います。「治療しなければ負けてしまう病気」という伝え方をすることが多いです。治療の必要性について子どもの発達段階に合わせて説明したあと、子どもたちに尋ねます。

 「どうする?」

 答えは明白です。20年以上の私の小児がん診療の中で、「治療をせずに家に帰る」と答えた子どもはこれまで誰一人いません。

 すでに命だけが助かればよいという時代は終わっています。治療を受ける子どもたち、両親やきょうだいにとっても家族の関係性が大きく変わるすさまじい体験となります。しかし、私たちは闘病期間が、家族にとって「停滞」ではなく「成長」のとき、となることを心より望んでおります。

 小児がんが治癒するようになってきた一方、成長や時間の経過に伴って、がんそのものからの影響や、薬物療法、放射線治療など治療によって生じる合併症がみられます。これを「晩期合併症」といい、小児がん特有の現象です。治った後も長期にわたるフォローアップが必要で、各診療科の医師、看護師、院内学級・保育、こころの相談医・臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカー、各種団体などが協力して、晩期合併症やさまざまな心理社会的な問題に向き合う支援をしています。

 なんとか困難を乗り越えてもらい、健康な大人としての社会生活を送ってもらうことが、私たち小児がんの医療に携わるものの心からの願いです。

 日本では2014年に日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group,JCCG)が設立されました。小児がん治療・研究を専門とするほぼ全ての大学病院、小児病院、総合病院(小児血液・がん専門研修施設)が200以上参加しています。専門家が少ないという困難性を含みながらも最善の小児がん治療体制を築くため、各領域の専門家を結集し、最先端で最良の治療法を開発しています。

 当院では2人の小児血液・がん専門医を配し、専門研修施設としてがん医療に携わる多種多様な人材の育成にも取り組んでいます。

 本シリーズでは、代表的な小児がんの症状や治療法を解説し、小児がん診療に不可欠な小児看護、院内学級・院内保育、そして心理的サポートについてお話ししていきます。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 いまい・つよし 奈良郡山高校、愛媛大学医学部卒。京都大学病院、大津赤十字病院などを経て2016年4月から現職。京都大学医学博士。日本小児血液・がん学会専門医・指導医、日本血液学会専門医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医、日本小児科学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月21日 更新)

タグ: がん子供倉敷中央病院

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