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心臓と血管のお話~早期発見と最新治療

川崎医科大学総合医療センターが開催した第9回開院記念市民公開講座。「心臓と血管のお話~早期発見と最新治療」をテーマに3人の医師が講演。大勢の人々が熱心に聞いた=8月19日、川﨑祐宣記念ホール

奥津匡暁内科医長

杭ノ瀬昌彦外科部長

森田一郎外科副部長 

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第9回開院記念市民公開講座が8月19日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の奥津匡暁内科医長、杭ノ瀬昌彦外科部長、森田一郎外科副部長の3人が「心臓と血管のお話~早期発見と最新治療」をテーマに講演した。

心臓の血管病の早期発見・早期治療
内科医長 奥津匡暁


 厚生労働省の人口動態統計によると心疾患は死因の第2位で15・2%を占めており、重点的な医療介入を必要とする疾患とされています。さまざまな心疾患の中でも生命にかかわることが少なくない心臓の血管病(冠動脈疾患)についてお話しします。

 冠動脈は心臓の表面を走っていて、心臓自体に血液を供給する極めて重要な血管です。この血管の流れが悪くなって心臓に不具合を来してしまうのが冠動脈疾患で、いわゆる狭心症、心筋梗塞のことです。

 冠動脈の内壁にコレステロールなどが沈着して動脈硬化が起きると血管の内腔(ないくう)が狭くなります。このため血液が流れにくくなって十分な酸素や栄養素を心筋に供給できなくなるのが狭心症。冠動脈が完全に詰まって血流が止まり、心臓の一部が壊死(えし)してしまうのが心筋梗塞です。動脈硬化初期には自覚症状がないまま進行するので、症状が出た際にはかなり進行した状態となっています。従って早期に発見して早期に治療することが重要です。

 動脈硬化になりやすい要因は幾つもあります。肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、コレステロールや中性脂肪などの脂質異常、糖尿病、喫煙などが挙げられます。これらに対する治療、改善は最低限必要ですが、症状がなくても、これらの要因を持っている方は定期的な検査をお勧めします。

 簡便な動脈硬化検査としては頸(けい)動脈エコー、下肢の血流を調べるABI検査があります。これらは直接冠動脈を見る検査ではありませんが、頸動脈や下肢の動脈に異常があれば、心臓の血管にも異常がある可能性は高いのです。これらの検査で異常を指摘された場合には心臓CT検査を検討します。

 心臓CT検査は冠動脈を直接観察できるので正確な診断が可能です。ただし、心臓CTの撮影には64列以上の多列CT装置が必要であることと、読影にはかなりの熟練を要します。このCT検査で異常がなければ冠動脈には大きな問題がないと言えます。しかし、この検査で大きな異常が指摘されれば心臓カテーテル検査・カテーテル治療が必要となります。

 高度の冠動脈病変を持っていても自覚症状のない患者さんは少なくありません。早期発見というだけでなく、見過ごされている病気を見つけるという意味でも、危険因子を複数持っている方は検査を受けることが重要です。

心臓手術~30年の歩み
外科部長 杭ノ瀬昌彦


 30年前の1987年に私は医師となり、そしてすぐに心臓外科への道を歩み始めました。

 対象疾患の多くは心臓弁膜症でした。僧帽弁や大動脈弁といった心臓の中の弁が固くなって取り替えないといけなくなる病気で、人工弁置換術をひたすら行っていました。当時は手術時間も長く、なかなか血が止まらないので大量の輸血が行われました。術後に黄疸(おうだん)が出現し、輸血後肝炎を発症する方も多くいました。その頃、C型肝炎は分かっておらず、ウイルス感染した血液がかなり混じっていたのです。

 CTも撮らずに手術をしていましたし、麻酔も若手外科医の仕事で、集中治療室で患者さんの隣に簡易ベッドを置き、つきっきりで管理をしていました。今のように簡単に血液透析など導入することもできず、尿が出なくなると、たいていは亡くなられてしまいました。患者さんは心臓手術を受けるというと、家族と今生の別れをして手術に臨まれていたものでした。

 この30年で何が変わったのでしょうか。一番は患者さんと医療を提供する側との関係の変化です。昔は医師中心でしたが、今では患者さん中心の医療となっています。患者さんは豊富な知識や情報を得られるようになりました。分かりやすい説明を聞き、理解し、同意する権利が保障されるようになりましたが、これには自己責任が伴います。

 では、外科はどう変わったのでしょうか。外科の王道は手術ですが、そこから派生して移植医療、遺伝子治療、人工臓器、再生医療、体を大きく切るのではなく小さな傷で手術をする低侵襲治療が出てきました。小さな穴だけを開けて治療する内視鏡手術の症例も増えてきました。

 診断技術も進歩しました。詳細なCT画像や超音波画像が3D化され、手術前に治療戦略が立てやすくなりました。術後も疑問点があれば容易にCTなどで診断して治療に結びつけることができます。

 今は80歳代の方が普通に心臓手術を受けられる時代です。高齢者には複数の病気を持った重症な方が多く、より安全性を高めていく必要性がわれわれに求められます。心臓の専門家だけでは対応できないさまざまな疾患を持った患者さんに対して、各種の臓器、疾患の専門家が手術前、手術後に手助けをしてくれます。今後、総合医療の必要性はますます高まると思われます。

血管治療最前線、重症虚血肢からフットケアまで
外科副部長 森田一郎


 近年、糖尿病など生活習慣病の増加に伴い足の血流障害は増加・重症化し、大小含めた下肢切断は年間1万人に達しています。

 下肢血流障害の治療は、症状別にI期~IV期に分かれます。I期(冷感・しびれ)では薬物運動療法。ちょっと歩くと足が痛くなって、休むとまた歩けるII期(間歇性跛行)では原則薬物と運動療法、上記治療が効果のない場合に血行再建。1日中、足がじんじん痛いIII期(安静時疼痛)とIV期(潰瘍・壊疽)を合わせた重症虚血肢では原則血行再建を行います。

 重症虚血肢は年齢とともに増えますが、何も治療をしないと半年くらいで足首よりも上の大切断に至ります。すると、お年寄りは寝たきりとなって認知症を発症します。加えて心臓や脳や腎臓などの血管病変を合併している方が50%を超えており、生命予後が非常に悪いというのが問題です。

 血行再建には、大きく分けてバイパス手術と血管内治療(EVT)があります。バイパス手術は、動脈が狭くなったり詰まったりした箇所に、下肢の静脈や人工血管を用いて橋渡しをする方法です。EVTは、血管の中から病変部にステント(金属を円筒状に加工したもの)をバルーンで血管に押しつけ、血管を広げます。

 EVTのデバイスの進歩は目覚ましく、今後バイパス手術の多くはEVTに取って代わられる可能性が高いと思われます。そのデバイスの代表が「バイアバーン」で、ステントと人工血管を融合させた製品です。従来のステントより治療成績が20%向上しています。

 現状の重症虚血肢の治療は、多科の先生と集学的なチーム医療を施行し、大切断を免れる率(救肢率)は改善していますが、生存率の改善はいま一歩です。

 足の血流障害を早期に診断できれば、心臓・脳の病変も早期発見でき生命予後も改善します。早期発見の手段として、フットケアがあります。足の状態を毎日観察する習慣を付けてください。足の色が悪かったり、傷があったり、巻き爪やタコやウオノメを見つけたら、治療が必要かもしれません。フットケア外来を受診してください。フットケアは、健康増進、生活習慣病対策としても意義があると考えます。最新治療と、予防対策としてのフットケアは車の両輪であり、二つの向上進化があって初めて大きな成果が上がります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月04日 更新)

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