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(2)肝臓がん 津山中央病院外科部長 篠浦先

【写真1】腹腔鏡下肝切除手術

【写真2】ラジオ波凝固装置

【写真3】肝動脈塞栓治療

篠浦先外科部長

 日本での、原発性肝がんの発生は年間4万5千人にのぼり、5大がんの一つとなっています。

 肝細胞がんの発生の母地としては、C型肝炎(約7割)やB型肝炎(約1割)といった肝炎ウイルス感染が大部分を占めている状況です。ただ、2011年から発売が始まった抗ウイルス薬「テラプレビル」に端を発するC型肝炎ウイルス治療の進歩により、現在では90%以上の患者さんのC型肝炎を治すことが可能となりました。このため、今後、肝臓がんは減少していくものと考えられます。

 ただし、肝臓がんがなくなるわけではありません。ウイルス以外の肝臓がんの発生母地としては飲酒が挙げられますが、近年、飲酒習慣のない脂肪肝の患者さんの一部から肝硬変へ進行する病態が増加しており、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれています。今後はこのNASHが、肝臓がんの原因のトップとなってくると思われます。

肝臓がんの治療

 肝細胞がんはがんの中でも最も治療方法の多いがんの一つです。(1)手術(2)穿刺(せんし)局所療法(3)肝動脈化学塞栓療法(4)化学療法(5)放射線療法があります。

 (1)手術 手術は腫瘍を切除する治療法です。ただし、肝細胞がんをお持ちの患者さんは肝臓の働きが悪い人が多く、全ての患者さんに行われる治療ではありません。近年は腹腔(ふくくう)鏡を使った肝切除も症例によって行われています=写真1

 (2)穿刺局所療法 腫瘍に針を指して治療する方法です。ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法=写真2=を中心として、基本的には3センチ、3個以下の腫瘍に対して行われており、良好な成績が示されています。手術に比べて入院期間も短く、患者さん負担の比較的少ない治療ですが、腫瘍の場所によっては行うことができない場合があります。

 (3)肝動脈化学塞栓療法 肝細胞がんは血流が豊富な腫瘍です。この特性を利用して、腫瘍を栄養している血管をつめる治療法です=写真3。カテーテルという細い管を肝臓の動脈まで持っていき治療を行います。DEB―TACEと言われる薬剤溶出性ビーズといった新しい塞栓物質が登場してきています。大きな腫瘍や、たくさんある腫瘍に対して行われますが、動脈血流の乏しい腫瘍には向きません。

 (4)化学療法 いわゆる抗がん剤治療です。点滴や飲み薬もありますが、前述の腫瘍を栄養している動脈から直接注入する方法もあります。17年6月にはレゴラフェニブという分子標的薬が加わり、治療の選択肢は広がりをみせています。進行したがんに対して行われる治療です。

 (5)放射線療法 以前は症状緩和のために用いられることが多い治療でしたが、3次元原体照射や定位放射線といった腫瘍に集中的に放射線を当てることが可能となり、治療として見直されてきています。保険適応外とはなりますが粒子線治療の効果も報告されてきています。

 上記治療以外にも、状況によっては肝移植が適応になる場合もあります。このように肝臓がんの治療は選択肢の多い半面、その治療については専門医でも悩ましいことも多く、個々の症例により、二つまたは場合によっては三つの治療を組み合わせ行うこともあります。

 当院でも上記治療のそれぞれの専門医(外科、内科、放射線科)が治療に当たっています。今後も患者さんの状態に合った治療も提供していく所存です。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 しのうら・すすむ 愛光高校、岡山大学医学部卒。公立周桑病院、心臓病センター榊原病院、岡山大学病院を経て、2016年より津山中央病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝胆膵外科学会肝胆膵外科高度技能専門医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月04日 更新)

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