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開院85周年 ブランド力磨き大きく発展 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町) 岡崎悟院長

岡崎悟院長

 ―心臓病センター榊原病院は、今年、85周年を迎えました。

 岡崎 1932年、岡山という地方都市で60床の外科病院で始まった当院は今では297床となり、心臓手術の件数などが全国で5位以内にランキングされる病院となりました。これまでの道のりは決して平たんではありませんでしたが、多くの人々からご支援、ご指導をいただきました。深く感謝を申し上げます。また、当院の職員の大変な努力もあったと思っています。

 当院は開院以来、「営利を目的とする世俗の病院にあらず。実際に迂遠(うえん)なる学説研究を主眼とする病院にもあらず」との綱領を掲げ、医療技術・知識を病に苦しむ人々の役に立てたいと日々努力を重ねてきました。創始者の榊原亨先生とは言葉を交わしたことはありませんが、国会議員に推されて今の医療保険制度の礎を築くなど、スケールが大きく、仁義を重んじる戦国武将のような人物だったと思います。

 ―36年、榊原亨先生は心臓外傷に対しての止血に世界で初めて成功されました。この時用いた「ガーゼ点絡止血術」は、学会で論争を巻き起こしました。

 岡崎 心臓を刃物で刺された傷害事件で、病院に男性が運び込まれました。当時はものすごい修羅場だったと思います。傷口を縫おうとしても今のように良い道具がそろっているわけではありません。針(弾軌)の穴に糸を通して縫うわけですが、糸より針が大きく、縫っても穴から血が漏れてしまいます。縫合をあきらめ、ガーゼを重ねると出血は止まり、この方法で世界初の救命に成功いたしました。

 また、この患者の治療をめぐって大阪帝大の小沢凱夫(よしお)教授と亨先生は日本の医学史に残る大論争を起こしますが、この論争が日本の心臓外科の幕開けとなり研究が進んだといわれています。医学会に与えた影響は大きかったと思います。

 亨先生は「医は実際なり、空言を廃す」とも言っています。その精神は心臓の内部を観察できる画期的な心臓鏡の開発にもつながり、世界で初めて人間の心臓の弁の動きを撮影しました。

 ―その後、榊原病院は心臓病専門病院への道を着々と歩んでこられました。

 岡崎 心臓手術の研究は第2次世界大戦中一時中断しましたが、51年、亨先生は弟の仟(しげる)先生(東京女子医科大学教授)と協力してボタロ管開存症(先天性心臓奇型の一種)の手術を行い成功しました。この手術はわが国の心臓手術の戦後第1例で、亨先生と仟先生はわが国の心臓外科の開拓者の栄誉を得ることになりました。この病院で亨先生は手術をはじめ多くの心臓病の診療を仟先生の手伝いのもと行いました。すなわち、わが国の心臓病学の黎明期の歴史はそのまま当院の歴史と重なります。

 また、忘れてはならないのが周(まこと)先生、仟先生、宏(ひろし)先生の3人の弟の存在です。頼まれたら断れない亨先生は医師会の設立に尽力し、国会議員にまでなってしまいました。病院を空けがちな亨先生に代わって病院を運営したのが周先生でした。また、仟先生は学術的に亨先生を支えました。56年、周先生が亡くなった後は、宏先生が病院を運営していきました。

 この兄弟で病院を切り盛りしていく中で、心臓病専門病院への道を歩んで行きました。59年に心臓カテーテル検査を開始しましたし、人工心肺を用いた開心術第1例も成功しました。67年には循環器内科が開設し、心臓外科に加えて診療の幅が大きく広がりました。69年には中四国で初めてとなるCCU(冠疾患集中治療室)も設置するなど、病院は大きく発展しました。

 ―84年には「心臓病センター榊原病院」と改称されました。

 岡崎 この改称によって「心臓病専門病院」としての当院のアイデンティティーは確定しました。94年には心臓手術5千例、2002年には1万例を達成しました。その一方で、体への負担が小さい低侵襲手術にも積極的に取り組んできました。大きな侵襲を体に加える手術では、とても超高齢社会に対応できないという思いがあったからです。最初の小切開手術は腹部の大動脈瘤(りゅう)でした。小さな切開だけで大動脈の人工血管置換を行いました。07年には胸骨を開かずに右胸の小さな傷から手術を行う心臓の大動脈弁置換術(ポートアクセス手術)に日本で初めて成功しました。10年には大動脈弁と僧帽弁の2弁ポートアクセス手術にも成功しています。

 ―榊原病院は心臓血管領域以外でも糖尿病対策にも積極的に取り組んでいますね。

 岡崎 当院は、心臓病専門病院として多くの虚血性心疾患の治療にあたっていますが、糖尿病を合併していることが少なくありません。糖尿病の方は狭心症や心筋梗塞のリスクが高くなります。これからは糖尿病対策が大切だということで、岡山大学病院第一内科で糖尿病を専門にしていた私のところにオファーがあったのが1997年のことでした。

 榊原病院に来て驚きましたが、患者さんの4割が糖尿病でした。2014年には糖尿病センターを開設し、周術期から慢性期まで、糖尿病による血管障害にもきちんと対応できる体制を整えています。

 ―12年9月には現在地に新病院が完成し、診療体制を大幅に強化されました。

 岡崎 以前の丸の内の病院は、低侵襲の治療など新しい取り組みを進めるにはスペース的にも機能的にも限界でした。手術室は3室から7室に増え、うち2室はハイブリッド手術室です。ICUも20床から30床となり、治療実績も上がってきました。

 ただ、今後の地域情勢を考えれば、症例数が大きく増えるとは思えません。病院運営を継続していくうえでいろいろな対策が必要となるでしょう。医療の高度化をさらに進める方向性で言えば、13年11月に経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)実施施設の認定を受けました。今年5月には植込型補助人工心臓管理施設に認定されました。実施施設の認定も目指しています。

 今まで築いてきた「心臓病専門病院」としての榊原病院のブランド力に磨きをかけるとともに、地域の医療機関とも連携し、心臓病の患者さんの在宅ケア支援など地域包括ケア構想の中での、急性期専門病院としての立ち位置を模索していこうと考えています。

     ◇

 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月04日 更新)

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