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(2)地域医療 新たな取り組み HARE ACTの支援 慈圭病院病棟医長 岡沢郎、副看護師長 上村聡

HARE ACTチーム。左から作業療法士、看護師、看護師、事務員、精神保健福祉士、医師

スタッフ同伴で神社を参拝

岡沢郎医長

上村聡副看護師長

 精神科医療は時代の変遷とともに変化してきました。特に近年は地域医療の推進に重点を置き、入院治療からの脱却を図ろうとしています。しかし既存の支援やサービスでは障害の程度により遅々として進まない方も多くいます。

 そのための取り組みの一つとして慈圭病院では2014年よりACTサービスを導入しました。

 ACT(Assertive Community Treatment=包括型地域生活支援プログラム)とは、精神疾患を持つ方が住みなれた場所で希望をもち、自立した生活を送るための地域医療の一環です。慈圭病院のACTは「ひとは自分らしく生きることで笑顔になれる」を理念にHARE ACT(晴れアクト)の名称で活動しています。

 特徴として、(1)24時間365日の支援体制をとっています(2)利用者や家族が生活している場に直接訪問します(3)医師・看護師・保健師・精神保健福祉士・作業療法士などの多職種チームで多面的にサービスを提供します(4)対象は統合失調症や気分障害などで症状が安定せず入退院を繰り返している方や、重症化した症状のために地域生活に困難を感じている方です。

 本来のACTでは未治療や治療中断の方も支援していますが、HARE ACTでは対象者を限定した中で前記のサービスを行っています。

 その中の1人に強い引きこもりに陥り治療中断となってしまった統合失調症の40歳代の男性がいます。「外に出たら攻撃される」「だれかに見張られている」という妄想が生活を脅かし、6年間家から出られないでいました。家族と同居していますが、家の窓も扉も常に施錠しており家族も大変困惑していました。

 ACTの訪問が開始された時は、あぐらで短時間座れないほど筋力は落ち、重度の糖尿病と肥満からほとんど寝ていました。訪問に関しては家族などの協力もあり、スムーズだったのが幸いでした。

 「われわれは味方ですよ」というスタンスを崩さず関りを続けさせてもらうなかで、少しずつ彼自身の言葉が生まれてきました。興味があること、やってみたいことなどを彼独特の言い回しで話すうちに外に出たい気持ちがあることが伝わってきました。

 家から出られない間はいつ外に出てもいいようにラジオ体操や卓上ゲーム、勉強や筋トレ、歌などを繰り返し行いながら全身を鍛えていました。

 彼のやってみたいことは「神社の参拝」でした。引きこもる前は1人で参拝するのを日課にしていました。それを再度チャレンジしたいという気持ちが出てきたようです。

 6年ぶりの外出です。「こえー、こえー」「今日はやめよう」と尻込みもしていましたが、われわれスタッフも諦めず鼓舞激励のなかで一緒に参拝をしていきました。

 参拝をするといつも「幸せになりますように」と声を出して繰り返し願っています。彼は自分の意思で自立への一歩を踏み出しています。今では数十カ所の寺院を参拝し、体力もついてきました。外来への受診もスタッフ同伴で行けるようになり始めています。

 彼の願いである「幸せになれる」支援を目指してHARE ACTは今日も訪問しています。

     ◇

 慈圭病院(086―262―1191)

 おか・たくろう 岡山操山高校、岡山大学医学部卒。岡山大学医学部付属病院精神神経科、慈圭病院、山陽病院、下司病院を経て2008年より再び慈圭病院へ。精神保健指定医、精神保健判定医、日本精神神経学会専門医・指導医。

 うえむら・さとし 岡山看護専門学校卒。倉吉病院を経て慈圭病院へ。病棟勤務をしていく中で退院支援、地域移行支援に関心を持ち、2010年精神科認定看護師取得。現在慈圭病院HARE ACTのチームリーダー。鳥取県出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月18日 更新)

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