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(3)精神科病院における多様な治療アプローチ 慈圭病院作業療法部長 難波多鶴子

慈圭病院の心理教育。再発予防やストレスへの対処方法についてグループで学び、理解を深めている

難波多鶴子作業療法部長

 現代が「ストレス社会」と呼ばれるようになって久しく、ストレスによるうつ病や適応障害・職域でのメンタルヘルス不全が注目されます。また、高齢化に伴う認知症の増加や、「発達障害」についての認識の普及等、精神科疾患に対する社会の関心やニーズは時代とともに高まってきています。こうした背景を受け、多くの方々がさまざまな問題を抱えて精神科病院を受診されます。

 一口に「精神科」といっても、他の診療科と同じように、治療の対象となる病気は多岐にわたります。病気が異なれば必要となる治療やアプローチも異なってきますし、回復状況に応じて必要なサービスも変わってきます。こうした現状を踏まえ、慈圭病院では2015年の新病棟開設に伴い、「急性期治療病棟」「認知症病棟」「ストレスケアユニット」といった機能分化したハードの充実を図りました。

 しかし、重要なのは療養環境ばかりではありません。精神科の治療では病気や状態に応じた多様な治療オプションが要求されます。精神科疾患の治療としては、薬物療法や身体療法以外に精神療法やカウンセリング、「心理社会的療法」と称されるいわゆるリハビリテーションプログラムが挙げられます。精神科病院では、個々の患者さまの治療計画に応じて、医師や看護スタッフだけでなく臨床心理士・作業療法士・精神保健福祉士といった専門職からなるチームでこうした治療オプションを提供しています。

 精神療法には、医師が通常の診療で行う一般的なものと、一定の技法に従った特殊なものがあります。また、個人に行う場合(個人精神療法)とグループで行う場合(集団精神療法)があります。近年うつ病等の患者さまの治療として注目されている認知行動療法もこうした精神療法の一つで、主として臨床心理士や医師によって提供されています。

 「心理社会的療法」の一つとして、入院や外来で作業療法士が中心となって行う「作業療法」や「レクレーション療法」があります。特殊なものとしては、特に統合失調症のリハビリテーションで有効と考えられてきた社会生活技能訓練(SST)や「心理教育」があります。心理教育は、グループで病気や治療についての学習を行い、再発の予防やストレスへの対処方法についての理解を深めるプログラムです。当院では統合失調症の方の心理教育プログラムとしてご家族を対象とした「家族教室」や患者さん本人を対象としたプログラムを展開してきました。

 この他、アルコール依存症の方を対象としたものや、最近では双極性障害(そううつ病)の患者さまを対象とした心理教育プログラムも行っています。

 昨今は症状の改善のみならず、患者さまの「社会的な能力」の回復に重点がおかれるようになってきています。こうした視点からは「認知リハビリテーション」、職場復帰を目指した「リワークプログラム」等が注目されています。

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 慈圭病院(086―262―1191)

 なんば・たずこ 倉敷南高校、岡山大学医学部卒。同付属病院神経精神医学教室に入局後、岡山赤十字病院神経内科、山陽病院、岡山大学付属病院精神神経科、岡山県立岡山病院(現岡山県精神科医療センター)に勤務。1997年5月より慈圭病院に勤務し、現在に至る。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定産業医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月02日 更新)

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