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(4)がんばるちからを支えたい~看護師の立場から 倉敷中央病院小児看護専門看護師 森貞敦子

みんなで一緒に食事をすることで、食事がすすむ子もいます。点滴をしながら、車椅子を使いながらでも、みんなといると元気になります

森貞敦子小児看護専門看護師 

 ある日の昼、Aちゃんはじっと薬を眺めていました。Aちゃんは小学生ですが、自分の病気が白血病であることを知っています。抗がん剤治療によって髪の毛は抜け、体調がすぐれない日もありますが、普段はたくさんお話をしてくれる笑顔のかわいい女の子です。最近、薬を飲んだ後に吐くことが続いています。「吐くから飲めない…」。朝の薬がまだ飲めておらず、水の入ったコップも、お口直しに食べるラムネもそのままです。

 小児がんを乗り越えるためには、化学療法(抗がん剤)、手術、放射線照射といった集学的治療が必要です。抗がん剤だけでなく、免疫力が低下した体を守るために、必ず飲まなくてはならないとても苦い薬もあります。化学療法中には、しばしばAちゃんのように内服が難しくなることがあります。ですが、主治医から「治療しなければ負けてしまう病気」と告げられた子どもたちは、葛藤しながらも「飲まない」とは言いません。

 私たち看護師は、そんな子どもと家族と一緒に、「どうやったら飲めるのか」と、さまざまな方法を試します。10種類を超える方法を試みたのちに最初の飲み方にたどりつく子、ある日突然飲めるようになる子、歯を食いしばり時に涙を流しながらも毎日確実に内服する子、いろんな子どもたちに出会ってきました。

 時には子どもたちの「愚痴」を聞いたりもします。私たちがすべきことは単に方法を探すだけではなく、子どもたちの声に耳を傾け、その子のことを最も理解されているご家族とともに、「病気に立ち向かう心」の芽生えを助け、支え、そして太い根っこに育てていくことなのだと、たくさんの子どもたちから教えてもらっています。

 内服だけでなく、子どもたちは治療や検査、薬の副作用、容姿の変化といった多くの困難に立ち向かいます。看護師の役割は、患者さんの一番近くにいる存在として生活を支えることです。半年から1年以上の小児がん治療を頑張る子どもたちの、「笑顔」をどれだけ引き出せるか、私たちの力の見せどころです。

 小児病棟には、0歳から10代後半まで、さまざまな年代の子どもたちが入院します。成長途上にある子どもたちは、年齢や発達、個性によって病気の理解の仕方や反応が異なります。「がん」と聞くと、大人はその病名に衝撃を受けますが、子どもは学校を長く休まないといけないことに衝撃を受けたりします。

 病気が分かるのはいつも突然です。子ども、親、そしてきょうだいも、気持ちの整理がつかないまま治療に臨まなくてはなりません。私たちは、治療を確実に遂行できるよう環境を整えつつも、子どもたちやその家族の気持ちも大切にしています。時には、離れて暮らすきょうだいにも入院中の生活の説明をしたり、面会できるタイミングを考えたりします。

 治療を経て子どもたちは成長します。自ら感染から身を守るための予防策をとるようになったり、他の病気の子どもをいたわったりするようになります。その一方で、退院の時、子どもたちは元の生活に戻ることや友達との関係に不安を抱くことがあります。治療とはまた異なる勇気がそこには必要です。私たちはそんな子どもを支える存在でありたいと願っています。

 当院では、2人の「小児看護専門看護師」を含めた小児病棟・外来看護師が連携して、子どもたちの健やかなる成長・発達につながる療養生活を支援しています。

 次回は、小児がんの子どもたちの闘病生活において、なくてはならない「院内学級・院内保育」について触れたいと思います。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 もりさだ・あつこ 松山東高校、岡山県立大学保健福祉学部看護学科卒、兵庫県立大学大学院看護学研究科修士課程修了。2000年から倉敷中央病院に勤務。09年から小児看護専門看護師として活動している。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月02日 更新)

タグ: がん子供倉敷中央病院

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