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(6)救命センター 津山中央病院院長代理兼救命救急センター長 森本直樹

救命センターに搬送された心肺停止患者が容易に心拍再開しない場合、人工心肺装置を挿入し血流を保つ

さらに低酸素症脳症が疑われる場合は脳神経細胞を保護するために2日間の低体温療法を行う

全身麻酔を必要とする患者30人に気管挿管を成功させるなどの課程を学んだ救命士気管挿管実習の修了式

森本直樹院長代理兼救命救急センター長

 津山中央病院に救命救急センター(救命センター)が設立されて17年が経過しました。救命センターは心肺停止状態や多発外傷、心筋梗塞、脳卒中など生死にかかわるような重症疾患に対応する三次救急医療施設です。

 当院には、津山、美作、真庭市など県北地域と兵庫県の佐用町から年間約5200台の救急車が患者さんを搬送してきます。最重症の救急患者の場合、救急車からホットラインで救命センターに連絡があります。救命センター医師が初期診療を行い、循環器、心臓血管外科、脳外科、消化器内科、外科など多くの専門科と協力して治療を行います。救命センターが管理する集中治療室(ICU)は、病院の持つ高度医療への橋渡し役になります。

 ▼心肺停止状態 年間約150例の心肺停止患者が来院します。目撃者のいる心原性の心停止に対しては、循環器内科とともに積極的に治療を行います。人工心肺装置を挿入して血流を保ち、カテーテル検査を行います。原因が心筋梗塞だと判明すればステント治療を実施します。低酸素症脳症が疑われる場合、さらなる神経損傷を予防するために2日間の低体温療法を行い、患者さんが歩いて退院できる可能性を高めます。

 ▼多発外傷・広範囲熱傷 交通事故や高所からの墜落など高エネルギー外傷は、救命センター医師が輸血や人工呼吸などで呼吸・循環を維持し、損傷部位に応じて、脳外科、整形外科、消化器外科、心臓血管外科に手術を行ってもらいます。広範囲熱傷や気道熱傷も救命センターで形成外科とともに対応します。

 ▼心筋梗塞・大動脈解離 胸痛を訴えて来院される患者さんの多くは、心筋梗塞か大動脈解離です。心筋梗塞が疑われた場合は、循環器内科が冠動脈造影を行い、バルーンやステントで血行再建を試みます。大動脈解離で手術が必要な場合は、心臓血管外科が開胸・開腹手術を施行し、解離している部位によってはステントを用いた血管内手術を行います。

 ▼脳卒中 くも膜下出血では、開頭クリッピング術や血管内コイル塞栓(そくせん)術を脳動脈瘤(りゅう)の性状により選択しています。発症直後の脳梗塞では、「t―PA」という血栓溶解剤を用いて詰まった血管の再開通を試みます。t―PAを使っても十分な効果が得られなかった場合など、状況に応じて経皮的脳血栓回収術も行っています。

 ▼敗血症 最重症の敗血性ショックの患者さんに対しては、腹膜炎であれば外科的処置を、肺炎であれば抗菌薬治療を行います。ショック状態から離脱が困難な場合は、血液浄化療法を積極的に行い、状態の改善に努めています。

 ▼現場から救命センターへ 川崎医大付属病院が運用しているドクターヘリも積極的に受け入れています。ドクターカーは月曜から金曜日の日勤帯(午前9時~午後5時)に津山圏域消防の救急車が当院に待機し、救命センターの医師と看護師が同乗し現場に駆けつけます。

 ▼救急救命士 救命士は救急現場で患者さんに接する初めての医療人です。彼らが患者の病態を正しく把握し、どの医療施設に運ぶか、どのように処置を行うかが、患者さんの生命を左右します。救命士には多くの資格があり、心肺停止患者に気管挿管したり、ショック患者へ点滴を行ったりと、活躍範囲が広がっています。気管挿管資格を持った救命士は現在、管内に143人います。最近、救命士を指導する指導救命士の制度が始まりました。当センターで指導救命士にしっかり勉強してもらい、所属署の救命士のレベルアップにつなげています。

 ▼おわりに 岡山県北は大変広いエリアですが、三次救急医療施設は津山中央病院のみです。「断らない救急」を病院全体で実践し、地域の医療レベルが向上するように努力しています。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 津山中央病院での救命士挿管実習修了者数(11月現在) 合計143人=津山圏域消防組合52人▽美作市消防本部26人▽真庭市消防本部26人▽新見市消防本部16人▽高梁市消防本部8人▽兵庫県西はりま(佐用・宍粟)消防組合15人

 もりもと・なおき 山口県・下関西高校、岡山大学医学部卒。広島市民病院、岡山大学病院、国立岡山病院などを経て、1999年より津山中央病院勤務。医学博士。日本救急医学会専門医。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年11月20日 更新)

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