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岡山大学大学院血液・腫瘍・呼吸器内科学 前田嘉信教授 患者に寄り添い全力尽くす

前田嘉信教授

 ―血液・腫瘍・呼吸器内科出身の医師は中四国を中心に全国で活躍しています。伝統ある講座の強みはどこにありますか。

 われわれの診る患者さんは病状の進行が速かったり、生死に関わったりする重篤な場合が多い。常に緊張感のある現場です。患者さんに寄り添って全力を尽くすという、医師にとって大切な心構えを現場が教えてくれる。ここでそれを肝に銘じた医師たちが1100人くらいいて、今も後進を育てています。いい医師がたくさんいることが強みだと思っています。

 ―教授ご自身は白血病など血液がんの治療を専門とされています。この分野を志したきっかけを教えてください。

 医師になるには岡山大学がいいと、高校の恩師に勧められました。生死に関わるような病気を診たいと思っていたので、迷わず当講座の前身の第二内科へ進みました。医師になって3年目、四国がんセンター(松山市)に勤務していた時、白血病の中でも急性前骨髄球性白血病という、非常に血が止まりにくい病気の患者さんに新薬を処方したところ、みるみるうちによくなりました。命の危険がある患者さんが薬で見事に生き返る。大変貴重な経験をさせてもらいました。

 ―昔は白血病などは「治らない病気」というイメージがありましたが、現在は多くの方の命を救えるようになりましたね。

 1970年代前半頃までは、10人のうち9人くらいが亡くなっていましたが、今は半数近い患者さんが助かるようになりました。血液中のがん細胞は採血すれば何度でも調べられるので、がんを起こす遺伝子異常は白血病を中心にしてよく研究され、根本的な原因を狙って治療することができるようになりました。そうした分子標的治療の薬は最初に慢性骨髄性白血病で成功を収め、他のがんでも盛んに治療薬の開発が行われています。

 肺がんで使われているニボルマブ(商品名オプジーボ)など、免疫細胞の働きを利用した免疫チェックポイント阻害剤も、もともと血液がんの分野で研究されてきました。血液がんの研究によって固形がんの治療も進歩してきた面があるのです。

 ―もう一つの治療の柱として、骨髄移植などの造血幹細胞移植があります。岡山大学病院は全国の移植施設の中でも実施件数が多いと聞きます。

 無菌室16床がフル回転し、年間50人前後の患者さんが移植を受けています。毎年、全国の国公立大学病院の中で1位か2位の移植件数です。中国地方唯一の造血幹細胞移植推進拠点病院に指定されており、地域全体の仕組みを整えていく役割も担っています。

 ―移植では医師だけでなく、さまざまな職種の連携が大切ですね。

 移植はまさにチーム医療。カンファレンスでも、医師や看護師以外に歯科医、歯科衛生士、薬剤師、栄養管理士、理学療法士らさまざまな職種が一堂に会し、自由に発言できるようにしています。例えば、栄養士がこういう点滴があれば食事とのバランスがいいと医師にアドバイスすることで、医療のレベルが上がっていきます。

 移植コーディネーターの役割もとても大切。患者さんに治療を提案する時、ちゃんと理解していただいているか、医師には言いにくいんだけど質問したいことがあるとか、フォローしてくれます。骨髄を提供するドナーに対しても、圧力がかからないよう、第三者の立場で取り持ってもらう。専任コーディネーターが1人いますが、さらに養成を進めています。

 ―移植の成績も向上していますが、ドナー由来の免疫細胞が患者の体を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)の克服が大きな課題になっています。

 ドナーの免疫細胞は残っている患者さんのがん細胞をやっつけてくれる効果もあり、上手に反応をコントロールしなければなりません。移植直後に起こる急性のGVHDは、免疫抑制剤でかなりうまく扱えるようになりました。しかし、皮膚や目などの症状が年単位で続く慢性のGVHDは、まだコントロールが難しい。現在われわれが主導して治験を進めている薬があり、早く患者さんに届けられるよう努力しています。

 ―移植後に子どもを持つこともできるのでしょうか。

 診断がついた時点から移植後の人生を考え、抗がん剤や放射線治療が始まる前に卵子や精子を保存するか、希望を尋ねるようにしています。気がつくと子どもが持てなくなっていたということのないよう、治療中でもチャンスを逃さずにお話しします。

 ―市民公開講座などの場で、つらい治療を経験された患者さんと協働する機会も増えていますね。

 提供された骨髄によって新しい命を授かり、それに感謝して何か社会貢献したいという方々が患者会をつくっておられ、頭の下がる思いです。情報提供などを通じ、喜んで協力させていただいています。患者会などの呼びかけに応え、ドナーに対する助成制度も自治体ごとに広がっており、ありがたいと思っています。

 まえだ・よしのぶ 淳心学院高校(兵庫県姫路市)、岡山大学医学部卒。国立四国がんセンター、愛媛県立中央病院などに勤務後、米国ミシガン大学留学を経て、岡山大学病院血液・腫瘍内科講師。今年7月に同大学大学院教授就任。日本血液学会認定(専門医・指導医)、日本造血細胞移植学会認定(認定医)など。50歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年11月20日 更新)

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