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患者の「人生の充実」掲げ30周年 倉敷平成病院・高尾理事長に聞く

将来の展望などについて語り合う高尾理事長(右)、大橋山陽新聞社倉敷本社代表

脳卒中などについて学ぶ「のぞみの会」=2017年11月

「ニューロモデュレーション」治療に取り組む医師ら

設立30周年を迎えた倉敷平成病院

「患者さんと共に生きていきたい」と語る高尾聡一郎・倉敷平成病院理事長

 救急から在宅まで、切れ目のない医療を通して患者の「人生の充実」を提供する社会医療法人全仁会倉敷平成病院(倉敷市老松町)が設立30周年を迎えた。患者本位の医療を掲げ、備中地域での存在感を高めてきた同病院の高尾聡一郎理事長に、30年の成果や理念に息づく思い、将来の展望などについて、山陽新聞社の大橋宗志取締役倉敷本社代表が聞いた。(敬称略)

□30年の歩み

 大橋 設立30周年、おめでとうございます。これまでの歩みを振り返っての感想を聞かせてください。

 高尾 倉敷平成病院は、倉敷中央病院の神経内科医だった父の武男(全仁会グループ代表)が脳卒中の急性期だけでなく、後遺症も含めて患者さんにずっと関わりたいとの思いで1988年に立ち上げた病院です。25周年を機に私が理事長職を引き継いでから5年がたちます。山あり谷あり、いろいろな出来事がありましたが、地域の皆さんに支えていただきながら、今に至っています。30年前から父と共に、この病院のかたちをつくってきた職員にも感謝しています。

 大橋 30年の変遷は。

 高尾 脳神経疾患を中心に「救急から在宅まで何時(いつ)いかなる時でも対応します」という設立からの理念を実現するため、体制を充実させてきました。例えば、病院と家庭との中間施設である「倉敷老健」、ご家族の介護負担を軽くするショートステイ、訪問看護、通所リハビリなどを併設した「倉敷在宅総合ケアセンター」を介護保険施行前から整備するなど、地域の皆さんから頼りにしてもらえる医療が徐々に形になってきていると思っています。

 大橋 高齢化がさらに進み、人口は減少する中で病院の在り方はどう変わっていくと思われますか。

 高尾 30年前の設立から掲げた理念を変えることなく貫いてきた姿勢が、今の倉敷平成病院を形づくっています。今後もその軸がぶれてはいけない。その点を踏まえた上で、今より1人暮らしの高齢者が増えたり、老老介護が深刻になったりするなど、社会の変化に合わせて事業の重点の置き方を工夫していくことが必要ですね。

 大橋 昨年4月には病院内に「倉敷ニューロモデュレーションセンター」を開設されました。

 高尾 ニューロモデュレーションとは、針状の電極から電気を流す器具で脳の深部を刺激し、パーキンソン病や本態性振戦による体の震えなどを止める脳神経外科の治療です。近年の治療器具の進化でどんどん有効になってきており、病院の新たな特性として取り組みたいと思っていました。数少ない専門医の一人である上利崇医師が、ちょうど私の岡山大の同級生だった縁でセンター長をお願いし、設立することができました。

 大橋 患者さんは増えていますか。

 高尾 想定より多い上に、すごく良くなられています。今、岡山県内でこの治療が受けられるのは岡山大と当病院のみ。まだまだ認知度が足りない治療なので、広報もしっかりやって、苦しんでいる多くの人に良くなってもらいたいですね。

 大橋 30周年の記念プロジェクトは。

 高尾 病院の増築を考えています。これまでの事業の拡大で、どこも手狭になっているのが現状です。現在タクシーのロータリーになっている正面玄関前のスペースに施設を増築し、外来や救急、手術室などを移設して拡充。空いた場所を活用して、待合室や診察室など、足りていなかったスペースを補うつもりです。加えて、建物の内装にリフォームを行いたいですね。患者さんも職員も気持ち良く過ごせるよう、病院全体を新築のようにきれいにしたいと思っています。

□地域とともに

 大橋 倉敷平成病院で注目すべきは、救急車の受け入れ件数の多さです。

 高尾 救急車の受け入れは、地域の医療を守る上で必要です。私たちは手術や入院が必要な患者を対象とした2次救急の病院で、年間約2300台を受け入れています。倉敷市内では、倉敷中央病院、川崎医科大付属病院に次ぐ件数です。これからも地に足を着けて、できることをやりながら地域に貢献していくつもりです。

 大橋 2010年には県内で5番目の社会医療法人に認定されましたが、救急分野での実績が評価されてのものだそうですね。

 高尾 年間の夜間・休日に750台以上の救急車を受け入れること、というのが認定条件の一つです。昼間はスタッフがそろっているため、受け入れは容易ですが、夜間・休日は受け入れ態勢を整えておかないと対応できない。そのため、公益的な社会医療法人となれるかを判断する基準になるんです。

 大橋 地域における医療連携にも積極的に取り組まれています。

 高尾 総社市とは市域を越えて適切な医療の提供を推進する医療連携協定、岡山市立市民病院とは医療活動の充実や人材育成などに関して相互協力する包括連携協定、国際医療ボランティアAMDAとも、大規模災害を想定した被災者支援の連携協定を結んでいます。当病院の理念に沿って在宅までの医療を行う場合、近隣の方はサポートできますが、遠くから来院された方はその地域の病院との連携が不可欠になってきます。連携は、患者さんが困らない状況をつくるためでもあります。

 大橋 毎年秋に開催されている患者さんや近隣住民との交流会「のぞみの会」も倉敷平成病院を特徴付ける会だと思います。勉強会や講演会、作品展示など、多彩な催しを1日で行うんですね。

 高尾 毎年約千人もの方に参加していただいています。病院主催の交流会としては、全国的にも最大規模ではないでしょうか。父が倉敷中央病院の勤務医だった時に、脳卒中の患者さんやその家族を支える会として自然発生的に始まりました。当病院は、この会を母体にして設立されたともいえます。私たちの活動の原点ともいえる会です。開催に向け、半年前から職員による実行委員会を立ち上げ、準備を進めます。この会に関わることで、当病院の理念を分かってもらいたいと思い、特に若い職員には積極的に参加してもらっています。

 大橋 応接室に金澤翔子さんの「共に生きる」の書を掲げられていますが、この言葉が高尾理事長の座右の銘だそうですね。

 高尾 脳神経疾患は、どれだけ上手な手術をしても後遺症が出ることがあります。だから、私たちは患者さんと共に、後遺症がもたらすハンディキャップに向き合いながら生きていかなければいけない。一人の人間としても、家庭と仕事、それにまつわる人間関係など、何一つ捨てたりおろそかにしたりすることなく、共に生きていきたい。そんな思いを抱いています。

 大橋 さらなる発展に向けての抱負は。

 高尾 組織が輝き、成長し続けるためには、私たち職員全員が心を一つにすることが非常に大切だと考えています。医療を行うにしても、一人一人がばらばらでは意味がない。同じ気持ちを持ち、同じ方向を目指して当たることで、私たちの理念が患者さんにしっかりと伝わるのではないでしょうか。そういう組織を目指し、これからも力を尽くしていくつもりです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年01月12日 更新)

タグ: 倉敷平成病院

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