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(3)大腸がん 岡山赤十字病院消化器内科医長 永原照也、第二消化器外科部長 池田英二

永原照也消化器内科医長

池田英二第二消化器外科部長

 大腸は盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸からなっており、これらの部位に発生したがんを大腸がんと呼びます。大腸がんは日本人の食生活の欧米化により年々増加しており、40代の頃から年齢を重ねるにつれて増加すると言われています。

 日本で1年間に大腸がんと診断された人数(罹患(りかん)数)は、男性で約7万5千人(がんの部位別で多い方から第3位)、女性は約5万6千人(同2位)で、死亡数は男性で約2万7千人(同3位)、女性は約2万3千人(同1位)となっています。

 早期に発見して治療すれば、ほぼ治癒することが可能ですが、自覚症状が出現する頃には進行していることがあり、症状がないからといって大丈夫とは言えません。大腸がん検診を受けることで1万人中13人が大腸がんの診断に至ると言われており、より早期に見つかる可能性があります。

 大腸がんの内科的治療としては、内視鏡的治療と、抗がん剤治療があります。

 ■内視鏡的治療

 早期のがんは内視鏡的な切除を行うことができます。消化管の壁は5層構造になっていますが、3番目の層(粘膜下層)の一部までの病変ならば内視鏡的切除が可能です。

 従来は、病変下に液体を注入して浮かせ、通電したスネア(金属の輪)で切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)が主流でした。2012年より、電気メスを使用して周辺を切開し、病変を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)が保険適用となり、より広い範囲の病変を切除することが可能となりました。当院でも積極的に行っています。

 ■抗がん剤治療

 内視鏡や外科治療では切除困難な病変がある方、あるいは外科手術後に再発リスクのある病期の方については、全身療法(抗がん剤治療)が行われます。

 大腸がんには、従来から使用されてきた殺細胞性抗がん剤に加え、分子標的治療薬が用いられます。薬剤の選択に際しては、病変組織の遺伝子変異(RAS変異)を確認することにより、より効果のある治療薬が使えるかどうか判断することができます。また、遺伝子多型(遺伝子の個人差)を確認することで、薬剤によっては副作用の出やすさをある程度予想することができ、重い副作用を回避するよう努めています。

 ■緩和治療

 生命(人生)を脅かす問題に直面する患者さんとご家族の生活の質を改善する治療です。当院には緩和ケア科がありますので、相談しながら、適切なタイミングで関わらせていただきます。

 ■腹腔鏡手術

 続いて外科手術について説明します。

 大腸がん治療の基本は、体から病変を除去することです。最近では腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で行う病院が増えています。腹腔鏡の利点は傷が小さいため、術後の痛みが少なく、回復が早いことです。開腹術に比べて手術が難しいため、外科医の技術によっては術中・術後の合併症やがんの再発が増えると心配されるかもしれませんが、日本内視鏡外科学会が技術認定制度を立ち上げており、手術技術のレベルを判断する一つの基準としています。当院は制度が始まった2005年から認定を取得しており、大腸がんの全手術例で技術認定医が執刀・指導しています。

 当院での代表的な術式をイラストに示します。がんの場所や大きさなどで多少変わりますが、おなかにつける最大の傷でも、がんの取り出しに必要な最小限(3~5センチ)にとどまります。他に5ミリ、2・4ミリなどの傷2、3カ所で行っています。

 速やかに日常生活に戻ることが順調な回復につながるため、ほとんどの方が術後8~9日程度で退院しています。ただし、術前予想よりがんが進んでいる、あるいは腹腔内の癒着が激しく手術時間が長引くと判断した場合などは、安全のため開腹術に切り替えます。

 当院で大腸がんに腹腔鏡手術を取り入れた1999年から現在までに行った約2千例の手術のうち、約1300例を腹腔鏡で行いました。経験を重ねて技術が向上し、導入当初は腹腔鏡手術を避けていた肥満や高齢の方、おなか深くにあるがんなどの症例にこそ、腹腔鏡手術の真価が発揮されると考えるようになりました。現在ではそのような例にも積極的に、安全な腹腔鏡手術を行っています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 ながはら・てるや 香川県立高松高校、岡山大学医学部卒。公立学校共済組合中国中央病院、津山中央病院、岩国医療センターなどで研修、2016年より岡山赤十字病院勤務。総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、医学博士。

 いけだ・えいじ 岡山大学卒、医学博士。大学院、海外留学を経て1992年より岡山赤十字病院に勤務。日本外科学会・消化器外科学会・大腸肛門病学会の専門医・指導医。日本内視鏡外科学会技術認定医。日本がん治療認定医機構認定医。日本大腸肛門病学会・内視鏡外科学会・臨床外科学会などの評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年01月15日 更新)

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