文字 

(4)肝がん 岡山赤十字病院肝臓内科部長(兼)消化器内科部長 小橋春彦、消化器外科副部長 山野寿久

肝動脈化学塞栓療法(TACE)の様子。画像を見ながらカテーテルを大腿(だいたい)動脈から肝動脈へ進め、肝細胞がんに栄養を送る血管を詰まらせる

腹腔鏡下肝切除術の術後7日目の創部

小橋春彦肝臓内科部長

山野寿久消化器外科副部長

 肝がんは日本のがん死の原因として、部位別で5番目に多いがんです。肝がんのうち9割を占めるのが肝細胞がんで、その7割はB型・C型の肝炎ウイルス感染が原因となっています。B型肝炎・C型肝炎が進行した肝硬変は、肝細胞がん発生の危険が高い病気です。

 一方、ウイルス肝炎を原因としない肝細胞がんが近年増加しつつあり、肥満に起因する非アルコール性脂肪肝炎の増加が原因ではないかと推測されています。当院では、肝細胞がんの予防、早期発見、根治的治療を目指して、肝臓内科と消化器外科、放射線科が協力して診療に当たっています。

 ■肝がんの予防

 B型肝炎・C型肝炎それぞれに大変よく効く抗ウイルス薬が登場し、肝硬変や肝がんに進行するのを予防できるようになりました。B型肝炎では、血中ウイルス量が多く肝機能異常を伴う方や、肝硬変の方は積極的に抗ウイルス療法(インターフェロンあるいは経口抗ウイルス薬)を行っています。

 また、C型慢性肝炎や肝硬変(症状が出ていない代償期)では、経口抗ウイルス薬を2~3カ月投与することで、100%近い率でウイルスを駆除できます。当院でも多数の方が治療を受けておられます。

 ■肝がんの早期発見

 慢性肝炎の方は年2回、肝硬変の方は年4回、超音波(エコー)やCT、MRIなどの画像診断と血液腫瘍マーカーを検査し、肝がんの早期発見につなげています。

 ■肝がんと診断されたら…治療法

 肝がんの大きさ、数、場所、肝臓の状態(肝予備能)、体力、患者さんの希望を総合的に判断して治療方針を決定します。第一選択は手術(肝切除術)あるいは経皮的ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法です。多発している場合は肝動脈化学塞栓(そくせん)療法(カテーテル治療)を、遠隔転移がある場合などは化学療法(抗がん剤)を行います。

 (1)経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)

 超音波で患部を見ながら、おなかを切ることなく体表面から細い針を直接肝がんに刺し、電気を流してがんを熱凝固する治療法です。がんの大きさ3センチ以下、3個以内がよい適応となります。

 (2)肝動脈化学塞栓療法(TACE)

 足の付け根からカテーテルという細いチューブを血管に入れ、肝がんに血液を送る肝動脈の奥まで進めて、抗がん剤と油性造影剤の懸濁液およびゼラチンスポンジ(cTACE)、または抗がん剤が溶け出す薬剤溶出性球状塞栓物質(DEB―TACE)を血管に詰めてがんを兵糧攻めにします。

 (3)化学療法

 肝動脈カテーテルから抗がん剤を注入する方法(動注化学療法)と経口抗がん剤を投与する方法があり、状況に応じて使い分けています。

 (4)肝切除術(手術)

 肝がんに対する肝切除は、肝予備能が良好で、がんが3個以内の場合に適応とされています。開腹で行う手術は、肝臓の大部分が肋骨(ろっこつ)の後ろに隠れているため傷が大きくなりがちで、20センチを超えることも少なくありません。

 肝臓の腹腔鏡手術は、肝臓手術の難しさのために普及が遅れていましたが、手術技術や器具の進歩により可能となってきました。腹腔鏡手術では5~12ミリの傷を数カ所開け、カメラや鉗子(かんし)を入れて行います。利点として、傷が小さく、体への負担が少ないこと、腸などの癒着が少ないことが挙げられます。

 当院では、2010年から腹腔鏡下肝切除術に取り組み、これまでに約100例に行ってきました。合併症は約3%と少なく、約9割の方が術後10日以内に退院されています。

     ◇

 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 こばし・はるひこ 岡山朝日高校、岡山大学医学部卒。四国がんセンター、津山中央病院、岡山大学病院消化器内科講師を経て2011年より岡山赤十字病院勤務。日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、岡山大学医学部医学科臨床教授、医学博士。

 やまの・としひさ 広島大学付属福山高校、岡山大学医学部卒。国立岡山病院、岡山大学病院、岡山市立市民病院などを経て2009年より岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本臨床外科学会・日本肝胆膵外科学会評議員。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年02月19日 更新)

ページトップへ

ページトップへ