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認知症を知り「認知症の予防」に取り組む 倉敷平成病院神経内科部長・認知症疾患医療センター長 涌谷陽介

涌谷陽介神経内科部長認知症疾患医療センター長 

 私の最近の趣味はもっぱら「認知症の予防」です。認知症の専門医として日本認知症予防学会にも入会し、認知症予防を勉強し続け、皆さまに適切な情報を発信したいと思います。

 私も今年52歳になり、人生を折り返したという、すごく強い感覚に襲われることがあります。医者は自分が専門とする病気になるという暗黙の了解みたいなものがあり、もしかしたら(いやきっと)、私も認知症になるかもしれません。

 今のところ、こうすれば絶対に認知症にならない―なんて言えないのは、とてもよく知っています。少しでも発症を遅らせる努力をするしかないけれど、まずはその年頃まで生き残らなくちゃ…。「よっしゃ、ひとまずここは超早めに取り組もう!」という論理的思考展開の結果、「認知症の予防」を趣味として、生活に取り入れることにしました。

 とりあえずのコンセプトは、「脳動脈硬化をできるだけ進めない」「脳のアミロイドβ(ベータ)タンパク(Aβタンパク)がたまり過ぎないようにする」です。脳動脈硬化もAβタンパク沈着も、症状が出るずっと前から進んでいることが分かってきました。とはいえ、現時点では発症前から使える薬はないので、非薬物的に取り組むしかありません。

 キーワードは「運動」「栄養」「交流」(もちろん笑顔付き)です。車をやめて自転車通勤にして、ジョギングなど少し息の切れる運動を生活に取り入れました。それが高じて、野山を走るトレイルランニングが新たな趣味になりました。

 運動すると、睡眠も良くなることに気がつきました。きっとAβタンパクの分解や脳内からの排出が改善されるはずです。歌のレッスンを受けることにしました。脳が活性化される気がします。

 不規則な食事や大食い、大酒をできるだけやめました。毎日彩りのある食事を食べています。(妻にありがとう!)。医学的なエビデンス(根拠)はともかく、マーガリンをやめてココナツオイルやエゴマオイル、ハイカカオチョコレートを買ってみたり、ナッツと蜂蜜をトッピングしたヨーグルトを食べてみたり。「医食同源」を強く意識し始めました。もちろん、以前よりずっと歯を大事にするようになりました。歯周病が進むと、脳梗塞にも認知症にもなりやすくなります。

 難聴になると認知症になりやすくなるというデータもあるので、イヤホンで大音量の音楽を聴くのをやめました。恥ずかしがらず、病院の血圧計で血圧を測ることにしました。もし高ければ、堂々と治療を受けます。適切な生活習慣病の治療は「脳を守る」とても大切な取り組みです。

 「ありがとう」「おかげさま」「お互いさま」「生かされている」といった気持ちを増やす努力を続けたいと思います。歯磨きのついでに、鏡の前で笑顔のトレーニングをしています。笑いヨガも良いかもしれません。頑固なプンプンじじいではなくて、筋の通ったニコニコじじいを経て、ぜひ老年的超越を目指したいものです。

 家庭と職場以外での「交流」はほんの少ししかないので、何か探さないといけません。卓球、テニス、グラウンドゴルフ、社交ダンス、コーラス、百歳体操、男の料理教室、朗読ボランティア…。どれがいいでしょうか。

 年を取っても、認知症になっても、お互い笑顔でいたいので、苦楽を共にする妻と仲良くするようにします。(これ大切!)

 認知症の専門医でも、現時点ではこんなものです。年代にかかわらず、認知症の病理学的変化が始まっていてもいなくても、氾濫する情報の中から適切なものを選び取り、少しずつ皆さまなりの「認知症予防」を始めてみてください。私たちがお手伝いします。

     ◇

 倉敷平成病院(086―427―1111)

 わくたに・ようすけ 鳥取県立米子東高校、鳥取大学医学部卒、同大学院医学研究科内科系専攻修了。同大学病院、松江赤十字病院、カナダ・トロント大学神経変性疾患研究センター留学、東原整形外科病院(福岡県大牟田市)を経て、2012年4月から倉敷平成病院神経内科部長。13年4月から認知症疾患医療センター長を併任。日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年02月19日 更新)

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