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足の外科 倉敷成人病センター 大澤誠也整形外科部長

足のタコは骨の変形が原因になっている可能性があることを知ってもらいたいと話す大澤医師

大澤誠也整形外科部長

関節の脱臼を伴う重度の外反母趾に内反小趾を合併している患者の足のエックス線画像(左)。大澤医師は骨を切り、角度を矯正してプレートとねじで固定する手術を行った(右)

外反母趾を3次元で矯正

 中四国ではまだ珍しい足首から先を扱う「足の外科」を専門とする。特に足の親指(母趾(ぼし))が「く」の字に曲がり、付け根が外向きに飛び出す外反母趾の患者を数多く診ており、骨の変形を戻す手術を積極的に行っている。

 手術を受ける患者のほとんどは女性だ。突出部が靴にこすれて炎症を起こすため、おしゃれな靴が履けない。指や足の裏などに分厚いタコができて痛み、次第に歩くのがおっくうになることも多い。ひどくなると、引きこもりにもつながりかねない。

 女性に多いのは、つま先が狭くヒールの高い靴を履くため、母趾の付け根に圧力がかかることが影響すると思われる。男性に比べて骨が細くて関節も柔らかいこと、中年になると、次第に筋肉が衰えて関節が緩むことも関係するとみられ、大澤医師は「中年以降の女性はかなりの割合で足の変形があると思った方がいい」と注意を促す。

 外反母趾の診断では、まずエックス線画像で重症度を判定する。軽度なら、足の指を開く運動やゴムを使ってストレッチする矯正法などで進行を防ぐことができる。しかし、骨の曲がる角度が30度を超えてくると、そうした保存的治療で改善する見込みは薄くなる。

 重度で痛みも強い人には手術を勧めることになるが、突出部を削り取るわけではない。足の中にある第1中足骨(ちゅうそくこつ)という骨をいったん切り、内部から角度を戻してやらなければならない。

 単に平面的にまっすぐにするのでは不十分。骨は回り込みながら曲がっていることがほとんどで、「3次元的にねじれを矯正しなければよくならない」と大澤医師は言う。骨とともに筋肉や腱(けん)もつなぎ直す繊細な手技が求められる。

 外反母趾が進行すると、曲がった母趾が隣の指に重なって脱臼を起こしたり、小指(小趾(しょうし))が内向きに曲がる内反小趾を合併したりすることがある。そうなると、2番目の指や小趾の骨も切らなければならない。指の長さのバランスを取るため、変形していない3番目の指の骨まで短くするなど、大がかりな手術が必要な場合もある。リハビリの困難を考えても、早期に手術した方がよい。

 足の外科は二足歩行する人間にとって重要な領域でありながら、整形外科の中でも長く軽視されていた。大澤医師が2003年に取り組み始めると、「足を診てもらえるとは思わなかった」という患者が次々に訪れ、次第に手応えを感じるようになった。近年は外反母趾だけで年間50例前後の手術を行っている。

 体の構造を理論的に考え、工夫を重ねてきた。手術で切った骨を固定するプレートも、骨の側面ではなく底面にあてがう。側面にプレートがあると、靴を履く時、皮膚の薄い部分に異物感が残る可能性がある。手技は少し難しくなるが、底面の方が患者のためになると判断し、採用した。患者に評価してもらい、効果を裏付けているという。

 そうした真摯(しんし)な姿勢は、職種を超えて協力関係を生む。手術に至らない外反母趾の人はどんな靴を履けばよいのか、指が分かれる足袋型の靴を開発しているメーカーなどを交え、研究会や講演会を続けている。医療者だけではカバーできない面を支えてくれる仲間たちだ。

 手術を受けて回復した患者には、あえて選ぶ靴を制限しない。靴を履くことができないため、冠婚葬祭の出席をためらい、外出も我慢してきた人たちに、もう一度、生活を楽しんでほしいと願うからだ。

 「『この靴で温泉旅行に行ってきました』と報告してくれるのが一番うれしい」。患者の喜びは、医師としての自分の喜びにつながっている。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 おおざわ・せいや 私立愛光高校(松山市)、岡山大学医学部卒。高知県立中央病院、香川労災病院、岡山労災病院などに勤務後、2008年に笠岡市民病院で足の専門外来を開設。倉敷第一病院を経て17年から倉敷成人病センターへ赴任。日本整形外科学会専門医、日本足の外科学会評議員など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年03月19日 更新)

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