文字 

(2)一人一人に寄り添った整形外科的アプローチ 旭川荘療育・医療センター整形外科診療副部長 青木清

青木清整形外科診療副部長

 連載初回で紹介された旭川荘の医療型障害児入所施設「旭川療育園」の園長は、堀川龍一氏、小田浤氏、赤澤啓史氏と引き継がれています。今回は、整形外科医として私が関わってきた中から、三つのトピックスを紹介します。

 ●障害児者の治療とサポート●

 運動発達のサポートは、療育園が開園した昭和32年(1957年)当初から現在も続いています。脳性まひなどで手足を動かしにくい子どもたちが楽しく日常生活を送れるように、また、体の痛みや変形を予防できるように、手術やリハビリを行ったり、装具作製のために診察したりしています。

 医療の進歩に伴い、痙縮(けいしゅく)(体の緊張)を和らげる治療の選択肢も広がっています。飲み薬に加えて、ボトックス注射=ボツリヌス菌の安全な成分を緊張の強い筋肉に注射し、和らげる方法▽脊髄(せきずい)後根(こうこん)切断術=緊張に関係する神経を確認して切ることで、主に下肢の緊張を改善する方法▽ITB療法=おなかに埋め込んだポンプからつながる細い管を通して緊張を和らげる薬を投与し続け、四肢や内臓の状態を整える方法―などがあり、個別の症例に応じた治療を相談しています。

 入院が長くなれば、療育園に隣接する県立岡山支援学校に通学することもできます。自宅へ帰るためのリハビリを行う場合もあり、一人一人に合わせたケアを行っています。

 ●小児整形、特に成長痛との鑑別診断●

 小児整形は、早期発見と早期治療がとても重要な領域です。O脚やX脚、内反足などの下肢変形や、いわゆる成長痛との鑑別を必要とするさまざまな疾患を対象とします。成長痛と言われた子どもの5人に1人は、後に別の原因があったことが分かったという報告もあります。

 一番多い単純性股関節炎(風邪の影響などで股関節液が増える状態)をはじめ、ペルテス病や大腿(だいたい)骨頭すべり症など股関節の病気や、膝周辺に起こりやすい骨肉腫、白血病など、命にかかわる病気の可能性もあります。下肢の痛みが続き、歩き方が気になる時には注意が必要です。

 ●股関節脱臼への取り組み●

 股関節脱臼は、子どもが歩き出してからも念頭に置いておかなければならない疾患です。日本で2011~13年に行われた調査では、1295人の股関節脱臼が報告され、うち199人(15%)は1歳を過ぎてから股関節脱臼と診断されています。

 痛みがないことがほとんどで、特に両側脱臼の場合は体の左右差が少なく、低身長と判定されて治療を受けていることがあります。日頃は家庭で、また1歳半・3歳健診時に、そして学校での運動器健診でも、横から見た子どもの姿勢に注意が必要です(図1)。

 乳児健診では、股関節開排制限(図2)があれば整形外科医による二次検診へ紹介となります。股関節開排制限がなくても、(1)大腿またはそけい部(太ももの付け根)におけるしわの左右差(2)家族歴(3)女児(4)骨盤位分娩―の四つのうち二つ以上当てはまれば、整形外科医に紹介することが推奨されています。

 股関節脱臼は寒い時期に生まれた子どもに多く、服などをぐるぐる巻き付けた状態は脱臼につながりやすいです。予防のため、なるべく薄着で過ごし、下肢、特に股関節が自由に動かせることが大切です。また、向き癖があると反対側が脱臼しやすいです。生まれた日から、げっぷをする時などに、股関節(特に向き癖の反対側)を開いた状態で縦抱き(図3)にするのがお勧めです。

 この分野の医療は専門性が高く、日本中、そして世界中のドクターと情報交換しながら治療に当たっています。また、家族会や学校で勉強会を行い、チームで治療やサポートができるように連携を深めています。これからも、子どもやご家族と近い目線で、“地球の宝”である子どもたちに寄り添っていきたいと考えています。

     ◇

 旭川荘療育・医療センター(086―275―8555)

 あおき・きよし 松江南高校、岡山大学医学部卒。同大学院修了。フランス政府給費留学生として研修。岡山大学病院、国立病院機構岡山医療センターなどを経て旭川荘療育・医療センター勤務。日本小児整形外科学会の評議員・国際委員・教育研修委員。好きな言葉は「Keep on smiling!(いつも笑顔で)」。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年04月03日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ