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川崎医科大学皮膚科学 青山裕美教授 皮膚通じ患者の全身診る

青山裕美教授

 ―4月から皮膚科の主任教授に就任されました。今後、どのような皮膚科にしていきたいとお考えですか。

 本大学皮膚科の最大の特徴は、岡山県南の北部から西部にかけての広い医療圏の皮膚腫瘍と難治性皮膚疾患の診療拠点であることです。これからも皮膚外科・皮膚腫瘍学に加え、自己免疫とアレルギーをキーワードに、自己免疫性水疱(すいほう)症、白斑、脱毛症、乾癬(かんせん)、アトピー性皮膚炎等にも重点を置き、幅広い疾患に対応していきます。また、皮膚科以外の診療科と交流しながら、患者さんをあらゆる方向から専門的に診療できる皮膚科を目指していきたいと考えています。

 皮膚腫瘍、皮膚外科に関しては、大学併設の付属病院で田中了講師を中心に診療しています。同時に、私が専門とする根治しにくい皮膚疾患でも、高い専門性を生かした治療に取り組んでいます。岡山市中心部にある総合医療センターにも皮膚科があり、感染症や帯状疱疹(ほうしん)など急性期の患者さんを多く診ています。

 付属病院と総合医療センターで合同カンファレンスを開くなど連携を密にしており、私も両院を行き来しています。大学病院というと、珍しい病気だけを診ているようなイメージを持たれがちですが、日常的なコモンディジーズ(一般的な病気)からレアディジーズ(希少・難治性の病気)まで幅広くカバーしています。

 ―診察の時にはどんなことを心掛けていらっしゃいますか。

 皮膚だけを診るのではなく、患者さんをあらゆる方向から捉える総合皮膚科学の実践を重視しています。

 皮膚は体の表面を覆う単なる皮ではなく、人体で最大の臓器です。外界の影響を受ける一方、「内蔵の鏡」と言われるように内臓の状態も反映します。皮膚そのものはもちろん、皮膚の下がどうなっているのかをつかむことが、治療の鍵となることが少なくありません。

 視診、触診、問診に加え、皮膚の一部を採取して顕微鏡で検査したり、角層の水分量を測定装置で調べたり、ダーモスコープ(拡大鏡)で病変を観察したり、エコー(超音波)で病変の周囲の状態を確認したりと、さまざまな機器を駆使して原因を解き明かし、的確に診断を下さなければいけません。

 私は現在、皮膚の表面にシリコンの膜を貼り付け、それを剥がして膜を観察するという新しい検査にも取り組んでいます。汗がどれくらい出ているかを直接見て、アトピー性皮膚炎などの治療につなげることができます。

 ―具体的な治療法を教えてください。

 大学病院として、最新の医療を提供しています。皮膚科の領域ではつい最近、アトピー性皮膚炎の抗体医薬品「デュピルマブ(商品名デュピクセント)」が登場しました。これまでの治療で効果が十分現れなかった患者さんにも効くとされ、QOL(生活の質)の向上が期待されます。

 しかし、新薬を使用する時には特に安全性が問われます。副作用が出ていないか慎重に確認しながら、エビデンス(有効性の根拠)を蓄積しています。どんな場面で使うのが最も効果的かを検証し、治療の最適化を図っていきます。

 薬に頼るだけでは本当の治療につながらないケースもあります。アトピー性皮膚炎の患者さんは、発汗機能が低下している人が少なくありません。汗はバリアーのように皮膚を覆い、抗原から人体を守る働きがありますが、汗が出にくいことが炎症悪化の原因となっていると考えられます。乾燥を防ぐ保湿剤を使うとか、シャワーではなく湯船につかって汗をかく習慣をつけるとか、患者さんの食事や住環境まで含めた生活の指導が必要になります。

 皮膚の乾燥が進んだ高齢の患者さんの場合、貼付剤にかぶれてしまい、治療が続けられないという例もあります。目に見える症状だけでなく、生活環境など患者さんの背景も理解しながら、より患者さんのためになる治療を行っています。

 ―今後の目標を教えてください。

 皮膚の病気を診ることを通して、その患者さんの健康リスク全体をマネジメントしていく。そのように全身を診られる皮膚科でありたいと思っています。

 皮膚は、治療によって刻一刻とよくなっていく様子が直接見えます。私が皮膚科医を30年近く続けてこられたのも、患者さんの笑顔のおかげです。私たちがやりがいを持って働く姿を示すことが、これから後に続く若い医師を育てることにもなると信じています。

 大学が果たすべき役割として、医療の進歩に資する研究も重要です。多くの患者さんと接し、どこに病気の原因があるのか、どういう治療がいいのかを考える中から、新たな研究テーマを見つけるという姿勢が欠かせません。臨床医と研究者の両方の目を持った「フィジシャン・サイエンティスト」の育成に力を入れていこうと思っています。

 あおやま・ゆみ 岐阜県立岐阜高校、岐阜大学医学部卒。京都薬科大学生命薬学研究所、岐阜大学医学部付属病院、米国ハーバードメディカルスクール・マサチューセッツ総合病院、岡山労災病院などを経て、2010年4月に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学講師。同准教授を務めた後、15年4月から川崎医科大学皮膚科学教授。日本皮膚科学会皮膚科専門医。53歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年05月08日 更新)

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