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第2回健康寿命 ―100歳まで介護されない健康なからだ―

健康寿命をテーマに運動、食事、笑顔、人とのつながりなどの大切さを分かりやすく紹介した第2回川崎学園市民公開講座=5月19日、くらしき健康福祉プラザ

椿原彰夫学長

大坂裕講師

武政睦子教授

西本哲也准教授

竹中麻由美准教授

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する第2回川崎学園市民公開講座が5月19日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「健康寿命 ―100歳まで介護されない健康なからだ―」。川崎医療福祉大学の各分野の専門家が、超高齢社会において健康寿命を維持するためのポイントを話した。運動習慣を身につけること、栄養に配慮した食事、人とのつながり。笑顔と運動について聴講者を交えた実演もあり、分かりやすく紹介した。

プロローグ
川崎医療福祉大学長 椿原彰夫


 わが国は世界一の長寿国となり、その平均寿命は2016年現在で、女性87・14歳、男性80・98歳となりました。最近よく話題になる言葉として、健康寿命という概念がありますが、女性74・79歳、男性72・14歳となっています。この年齢も世界一高齢ではあるのですが、平均寿命との間にかなりの差があります。

 病気にかかっていると自分の健康寿命が終わってしまったということではなく、介護保険で定められた基準の要介護1までの方のうち、自分は健康だと感じている場合には健康寿命の範囲内とされています。つまり、女性では平均12年間、男性では平均9年間、介護が必要となることを表しています。そして、この差が縮まることを、誰もが望んでいます。

 厚生労働省の報告では、現在18歳の方が100歳になる時に、半数の同級生がご存命であると予測されています。100歳の同窓会に、介護なしで参加することができれば、どれだけ素晴らしいことでしょう。

 介護されない身体をできるだけ長く保つには、(1)筋力や持久力を保つこと(2)良好な栄養状態を保つこと(3)肺炎などの感染症にかからないこと(4)基礎疾患をしっかり管理すること(5)脳の活性化や生きがいを持つこと(6)良い地域包括ケアシステムを築くこと―などが重要です。

健康寿命を知っていますか?
川崎医療福祉大学 リハビリテーション学科講師 大坂裕


 健康寿命とは、人の寿命において「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを指します。基準はさまざまですが、健康上の問題で日常生活に影響がない、あるいは自分が健康であると自覚されている方や、介護保険で要介護2以上の認定を受けていない方が、健康上の問題で日常生活が制限されない状況であると言えます。

 平均寿命については、年々長くなる傾向にあり、2016年では女性87・14歳、男性80・98歳となっています。一方、健康寿命は女性74・79歳、男性72・14歳であり、平均寿命と比べて女性で約12年、男性で約9年の開きがあります。この期間は日常生活を送る上で何らかの介護や介助などが必要になっている状態であるため、平均寿命のみでなく健康寿命を延伸することが介護予防において重要となります。

 要介護状態の入り口である要支援状態の原因としては、関節疾患や転倒による骨折が上位を占めています。日頃から運動の習慣を取り入れることが介護予防につながります。簡単で取り入れやすい運動としては、歩くことです。単純に歩くのみでなく、1日の中で少しの時間でも早歩きや階段の上り下りなど、負荷のかかる運動を意識して行うとさらに効果的です。

 地域包括ケアシステムという、住み慣れた地域でいつまでも暮らしていけるよう医療介護体制の構築を国が進めており、介護予防事業として住民主体の介護予防活動である「通いの場」が地域の中にたくさんできています。皆さんの地域にある通いの場を、運動習慣を身につけるための場として活用してみてはいかがでしょうか。

簡単につくる、美味しく食べる
川崎医療福祉大学臨床栄養学科教授 武政睦子


 健康なからだを維持するのに欠かせないものは「食事」です。健康寿命を延ばすには、成人期からの生活習慣病の要因である過栄養の予防、高齢期に入ってからは認知症や骨折・転倒さらには虚弱の要因となる低栄養の予防が重要です。

 栄養状態は、体重変動の影響を強く受けており、中年期では体重の増加、その後高齢期では体重の減少が起こってきます。体格指数(BMI=ボディー・マス・インデックス)は、体重(キロ)÷身長(メートル)÷身長(メートル)で算出し、18・5~25・0を理想とします。ただし、70歳以上の方は、20・0~25・0を理想とし、やせ気味の方よりやや太めの方のほうが生存率は良いとされています。

 高齢期には、エネルギーをはじめ多くの栄養素や食品の摂取不足が原因で低栄養を招く可能性があります。自分の食品摂取状況を評価する「食品摂取の多様性スコア」を紹介します。これは、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、海藻類、芋類、果物および油脂類の10食品群の1週間の摂取頻度から評価します。ほぼ毎日食べる場合は「1点」、そうでない場合は「0点」として10点満点で合計点を算出します。得点が高いほど、骨格筋量が多く、歩行速度が速いと報告されています。

 得点の高い食事をするためには、1食の中で主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が必要となります。倉敷市では「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上食べている人を80%に」という目標を掲げています。

 100歳まで介護されない健康なからだを保つためには、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事」「美味(おい)しさを楽しむこと」が重要となります。

≪笑顔・運動≫長寿健康の道しるべ
川崎医療福祉大学健康体育学科准教授 西本哲也


 健康にとって「運動」は、「栄養」や「休養」と並んで大変重要な要素であることはご存じの通りです。また運動はその人々にとって適切なものが取り入れられるべきであり、年齢、生活習慣、生活歴、現病歴、既往歴などを考慮して必要な運動を設定し、行われることが望ましいでしょう。

 本学健康体育学科では、このような個人に合った適切な運動指導を行うことができる「健康運動実践指導者」ならびに「健康運動指導士」の養成をしており、市民の皆さんの長寿健康を担えるような医療福祉人を育成しています。

 また昨今、健康との関連の中で、「笑顔」や「笑い」が注目されています。笑顔や笑いには免疫力を向上し、ストレスを軽減させ、身体を動かしやすくする作用があります。これは脳内伝達物質であるドーパミンなどの働きと関係があるようです。ドーパミンはやる気・動機づけ、集中力、生産性を上げる鍵となる物質であり、運動によって脳への栄養素の流れが改善され、ドーパミン分泌量が増えるといわれています。

 ドーパミンの他にもエンドルフィンやセロトニンと呼ばれる脳内伝達物質が「笑顔」・「運動」によって増えます。エンドルフィンは多幸感や鎮痛作用をもたらし、セロトニンは自律神経系を調整し、心のバランスを整えます。

 つまり、笑顔で運動することによって脳を元気に、そして安らぎをも与えてくれることにもなり、長寿健康へのいざないとなり得るのです。

地域で元気に生きるために
川崎医療福祉大学医療福祉学科准教授 竹中麻由美


 「人」という字が表しているように、人は他者と支え合って生きています。

 そして、「人とのつながり」が人を支え、健康な人生を実現していることが、さまざまな研究で明らかにされています。他者との楽しい交流や信頼関係は、気持ちを明るく保ち、身体にも良い影響を与え、認知症予防にも効果があると言われています。

 「地域包括ケアシステム」は、住み慣れた地域で生活を続けられるよう、医療や介護をはじめとするさまざまなサービスが一体的に提供されるシステムづくりを目指しています。必要なサービスを利用できることは、その人らしく元気で生きるために重要です。一方、人は生きる中で、さまざまな出来事と遭遇します。年齢を重ねることは誰にとっても同じですが、加えて、子育て、介護、勉強、仕事、住宅、病気など、人それぞれの課題と向き合い、乗り越えていくことになります。

 “人それぞれに起こること”は、逆に“誰にでも起こること”と言えます。「ひとごと」ではなく「わがこと」として考え、誰かが困っている時には誰かが支える「お互いさま」の仕組み、つまりつながりが大切です。地域住民一人一人が互いに支え合い、周りの人たちと共に生きる「共生社会」の構築が求められています。

 共に生きる地域は、お互いが信頼できる地域です。「生きる」ことは「活きる」「行きる」「息る」ことです。人とのつながりの中でこそ、健康なからだ(身体と精神)がつくられ、元気に「いきて」いけるのです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年06月04日 更新)

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