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(9)眼底疾患の治療はこう変わった! 倉敷成人病センター眼科部長・特任副院長 岡野内俊雄

増殖糖尿病網膜症の手術前(左)と手術後の眼底写真

近視性黄斑分離の手術前(右)と手術後の網膜断層像

岡野内俊雄眼科部長・特任副院長 

 眼底に生じる病気の多くは50歳を過ぎた中高年の方に発症します。若いときに眼科に縁がなかったとしても、誰もが眼底疾患を患う可能性があります。近年の検査機器の進歩と病態研究により、治療法は飛躍的に進展しました。薬物療法の中心は血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを抑制する抗VEGF薬治療です。外科治療の中心は硝子体手術です。

 ■抗VEGF薬治療

 VEGFが関与する病態には二つあります。一つは異常な血管の発生・発育による新生血管で、もう一つは血管の拡張と透過性亢進(こうしん)による浮腫です。

 <新生血管>

 代表疾患は加齢黄斑変性です。網膜の中心にあり視力に関わる黄斑という部位で、網膜の後ろに存在する脈絡膜から、異常な血管である脈絡膜新生血管が生じ、黄斑が障害されます。似たような疾患に近視性脈絡膜新生血管や特発性脈絡膜新生血管があります。

 また、網膜面上に異常な血管を形成する疾患に、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞(へいそく)症などがあります。この場合、新生血管は線維膜を作りながら眼球の内側に発育し、硝子体出血や網膜剥離を引き起こします。

 これらの新生血管を消して瘢痕(はんこん)のようにし、もしくは縮小させるため、抗VEGF薬を眼内(硝子体(しょうしたい)内)に注射します。入院する必要はなく、通院で治療できます。多くは保険適応ですが、一部適応外となる場合もあります。

 <浮腫>

 網膜の血管が障害される疾患では、血液の成分が血管から漏れて網膜組織にたまっていきます。黄斑にたまると黄斑浮腫という病態になり視力が低下します。代表疾患は糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症で、高度な浮腫が続くことで不可逆性の視力低下に至ります。

 黄斑浮腫を軽減、消し去るためにも抗VEGF薬治療が行われます。それぞれの疾患の病態や経過によって、抗VEGF薬治療と他の治療(ステロイドテノン嚢下(のうか)注射、レーザー光凝固術、硝子体手術)を併用したり、他の治療を優先したりすることがあります。

 ■硝子体手術

 眼内の疾患や、眼内異物や眼球破裂などの外傷に対して、硝子体腔を経由して処置を行うのが硝子体手術です。眼底疾患の外科治療では、ほとんど全てがこの手術の対象となります。

 角膜の外側の白目の部位に0・4ミリ程度の極めて小さな穴を3、4カ所開け、そこから器具を挿入して手術を行います(イラスト参照)。手術機器と手技はともに毎年進歩を続けており、適応疾患は広がり、手術時の侵襲が軽くなり、手術時間の短縮も進んでいます。術後早期の離床、視力回復が可能になり、異物感も和らげられています。

 今年も眼内の処置を行う硝子体カッターのさらなる改良が行われ、難治疾患に対してより繊細な手術ができるようになりました。

 手術対象となる眼底疾患は、網膜全域が病変となる網膜疾患と、黄斑に病変をきたす黄斑疾患に分けられます。

 <網膜疾患>

 代表疾患は増殖糖尿病網膜症や網膜剥離、感染性眼内炎などです。硝子体手術により、網膜の形態を復元し、機能の維持・改善を図ります。機器と器具の地道な改良と手技の開発が進み、特に重症例で失明の回避や視力の維持につながる恩恵がもたらされています。

 <黄斑疾患>

 黄斑に穴が開く黄斑円孔(えんこう)、網膜面に形成される線維膜の収縮によって黄斑のゆがみをきたす黄斑上膜が代表疾患です。高度の近視眼の方では、裂けるチーズのように黄斑の網膜が分離して肥厚する黄斑分離、穴が開いて網膜剥離をきたす黄斑円孔網膜剥離などがあります。

 硝子体手術では、線維膜や、網膜の最も内側に存在する内境界膜を取り除きます。円孔をふさいで網膜の分離・肥厚をなくし、網膜を元に戻して視機能の回復、改善を図ります。

 治療は格段に進歩しましたが、視機能を維持するには疾患の早期発見、早期治療が大変重要です。片目に異常があっても、もう片目が良いために気付かず、治療が遅れることもしばしばあります。

 普通に見えることは素晴らしいことです。見え方に違和感があったら、片目ずつ閉じて異常がないか確かめ、早期発見につなげましょう。

     ◇

 倉敷成人病センター(086―422―2111)。

 おかのうち・としお 広島大学附属高校、岡山大学医学部卒。新居浜十全病院、岡山大学医学部付属病院、広島市民病院などを経て、2006年より倉敷成人病センター眼科部長、2017年から特任副院長。日本眼科学会専門医・指導医。眼科PDT(光線力学的療法)認定医。医学博士。岡山大学医学部医学科臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年08月07日 更新)

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