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(3)目と全身の関わりについて 岡山市立市民病院眼科診療部長 坂口紀子

腎臓疾患に伴う二次性高血圧症の患者の眼底写真。高血圧性網膜症による視神経乳頭の強い腫れ、白斑、出血、網膜動脈の狭細化などが見られる

正常な状態の眼底写真(左眼)

坂口紀子眼科診療部長

 体の病気の一症状として、目に症状が出ることがあるのをご存じの方は多いと思います。今回は三つの観点から、その具体例をお伝えします。

 □「その症状、原因はどこから?」

 患者さんは、視力低下、ものが二重に見えるなどの目の症状が現れたときに眼科を受診されます。眼科医は、患者さんの症状を丁寧にお聞きし、目に対する一通りの検査を行いますが、もっと他に原因がありそうだと疑う場合、目以外の検査を追加します。

 例えば、眼底出血が起きた患者さんが血液検査を受けると、治療されないままの糖尿病や、白血病などの血液疾患が見つかることがあります。また、網膜血管の詰まりが、不整脈のために心臓内にできた血栓が原因であると分かることがあります。

 眼底検査では原因が見当たらないのに、視野(見える範囲)の異常が起きている患者さんで、頭部の画像診断(CTやMRIなど)を行ったところ、脳梗塞、脳腫瘍などの病気が見つかることもあります。他の診療科で扱う疾患が主な原因となり、目の症状が出ている場合は、速やかに専門の医師と協力して治療を開始します。

 □目の合併症に注意が必要な全身の病気

 よく知られているのは、糖尿病の目の合併症、中でも網膜症です。糖尿病によって引き起こされる血管障害によって、目の奥の網膜(カメラのフィルムに相当する部分)に、出血、血管の詰まり、むくみが起き、進行すると失明することもあります。現在、わが国の失明原因の第2位になっています。

 注意しなければならないのは、視力低下を自覚しないまま、進行していくケースがあることです。治療の基本は糖尿病のコントロールですが、適切な時期に目の治療も開始しなければなりません。内科と眼科が連携し、患者さん自身が病気を理解することが不可欠です。その方の病状に応じた間隔で、眼科も受診するよう勧めます。

 眼底検査で強い動脈硬化が見られる方は、将来、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクが高いことが分かっています。血圧をコントロールし、脂質異常症に対する治療を行うなど、全身を管理する必要があります。

 膠原(こうげん)病、内分泌疾患、整形外科や皮膚科の疾患でも、目に異常が出やすい病気がありますので、他の診療科から眼科検査の依頼を受けることもしばしばあります。

 □目を健やかに、体も心も健やかに

 現在、眼科手術で最も多いのは白内障手術です。他の異常がなく、白内障だけが視力低下の原因であれば、多くの方が手術により視力を回復できます。

 目から得られる情報量は大きいので、目が見えなくなると移動が困難になり、外出することが少なくなったり、転んで骨折したりすることもあります。生活が不活発になり、精神面の活動も低下すると、うつ状態を引き起こしたり、認知症を悪化させたりする要因にもなります。

 外来で診察していて、視力を取り戻した患者さんがいきいきとした表情でやって来られると、とてもうれしいものです。高齢だったり、他の病気もあるからと、手術に消極的な患者さんやご家族もいらっしゃいますが、併存する疾患を管理しながら手術することもできます。認知症の強い方は全身麻酔下で手術する方法などもあります。

 視神経の病気である緑内障、網膜中心部の病気である加齢黄斑変性症などでも、近年の治療の進歩により、以前に比べて見る機能を保つことができるようになりました。早期発見が治療の成功につながります。早期は自覚症状がない方も多いので、定期的に目の検診を受けることをお勧めします。

 見る力を保つことは、健康寿命を延ばすために欠かせません。目を大切にして、健やかな日々を過ごしていただくことを、私たち眼科医はいつも願っています。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 さかぐち・のりこ 高知県・土佐高校、岡山大学医学部医学科卒。岡山大学医学部附属病院、岡山赤十字病院などを経て1987年から岡山市立市民病院眼科に勤務。日本眼科学会専門医、岡山大学医学部医学科臨床教授。池坊正教授。岡山県眼科医会副会長、岡山県アイバンク評議員長などを務める。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年08月07日 更新)

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