文字 

川崎医科大学スポーツ・外傷整形外科学 阿部信寛教授

阿部信寛教授

 ―川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の整形外科部長を務め、スポーツによるけがの治療を多く手掛けておられます。アスリートたちも訪れるそうですね。

 スポーツ整形外科は関節内の骨、軟骨、半月板を損傷したり、筋肉や靱帯(じんたい)を傷めたりした患者さんが対象です。少しでも早くスポーツの現場に復帰できるようさまざまな治療を行っています。膝のけが、中でも靱帯断裂の患者さんが多いです。

 膝は主に4本の靱帯で安定に保たれています。そのうちの前十字(ぜんじゅうじ)靱帯は切れたら自然には治りません。自家組織、つまり患者さん自身の膝の周りの組織である内側のハムストリング筋腱(きんけん)、膝蓋腱(しつがいけん)、大腿四頭筋腱(だいたいしとうきんけん)などを移植して靱帯を再建します。全国で年間1万人に1人ぐらいの割合で切れると報告されていますが、当院は昨年、110人の患者さんを手術しました。岡山県内外から受診され、他施設と比べ断トツの多さです。

 膝はスポーツ活動でも大変重要な働きをするので、靱帯再建手術や半月板治療は今まで以上に力を入れていきたいです。

 ―痛みが少なく傷の小さい低侵襲の関節鏡・脊椎内視鏡手術がご専門ですね。

 関節鏡視下手術は低侵襲的であるなどの利点があり、膝靱帯の再建をはじめ、肩、肘、足首などの手術にも応用しています。骨折の治療にも関節鏡を使います。特殊な器具を用いるので高度な技術が要求されます。日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)が定める高い技術基準を満たした関節鏡技術認定医は、現時点で、岡山県に私一人だけです。

 靱帯の再建なら直径約0・5センチの穴を二つ開けて、細い管の先に取り付けたカメラを関節内に入れ、中をのぞきながら治療します。大きく切開しませんから、術後の早い回復が見込めます。脊椎内視鏡は主に椎間板ヘルニアを患い、早くスポーツに復帰したいと望む学生さんらに行います。

 ―2013年に岡山県内で初めて成功させた自家培養軟骨移植手術はどのような術式ですか。

 例えばスポーツ中に膝をひねって軟骨が欠けたというケースなどに行います。靱帯が切れると同時に軟骨が損傷することがあります。患者さん自身の膝の軟骨の一部を採取し、4週間培養して大きくし、損傷した部分に植えます。1年くらいで痛みが少なくなり、やがて全く気にならなくなります。

 培養せずに自身の別の部位の軟骨を移植する方法もありますが、損傷部分が4平方センチ以内の場合に限られます。大きな軟骨折損部を覆うためには培養が必要です。若い患者さんに適しています。損傷部位がさらに大きい場合や、年齢による変性を伴う場合は人工関節手術の適応になります。

 ―手術にはコンピューターナビゲーションシステムを活用しておられますね。

 膝関節や股関節の変形性関節症の治療で、人工関節の置換手術などに使っています。例えば、人工膝関節置換術の手術でナビゲーションを使えば、手術中に人工関節の位置や角度を確認し、膝の動きを微調整することができます。痛みを取り除くだけでなく、本来持っている膝の動きも再現できるように治したいのです。患者さんの満足度が少しでも上がるように努力したいと思っています。

 ―患者さんに接する際に何を心掛けておられますか。

 「寄り添いながらも付かず離れず、伴走する」イメージですね。患者さんの気持ちをできる限り理解したいと思っています。その上で正確に診断し、正しい情報を患者さんに伝えて、例えば「手術をすればこの期間内に治るから、気持ちを切り替えていこう」と言ってあげることが大事だと思います。患者さんが「走りたい」と言われたら、最も適した治療法を選択し、何カ月か後にはちゃんと走れるようなプログラムを組む。それが私の仕事だと考えています。

 ―骨や関節、筋肉が衰えて運動機能や自立度が低下するロコモティブシンドロームを防ぎ、健康寿命を延ばすにはどうすればいいでしょうか。

 超高齢社会を迎え、介護が必要になったり、寝たきりになったりしないためには、やはり運動することです。散歩やウオーキングが手軽にできて一番良いと思います。片足で立つのも効果があります。

 スポーツ外傷は正しく診断し、きちんと治療しておかないと、年を経て変形性の関節症になるリスクが高まります。当院はどんな手術も関節鏡などの低侵襲技術を使ってできる設備、人材がそろっています。膝関節疾患であれば、関節鏡、骨切り矯正、片側だけの単顆(たんか)型・前後十字靱帯温存型を含めた各種人工関節手術など幅広く対応できます。

 全てに精通し、たくさんの治療法の中から患者さん一人一人の希望に応じ、最適な医療を提供できるように研さんを積みたいと思っています。医学生にもそう指導しています。スタッフに恵まれ、若手医師も頑張っています。

 あべ・のぶひろ 大阪市出身。大阪星光学院高校、岡山大学医学部卒、同大学院修了。医学博士。大阪労災病院スポーツ整形外科、米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校、岡山大学病院などを経て、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科運動器知能化システム開発講座准教授。2012年から川崎医科大学スポーツ・外傷整形外科学教授。川崎医科大学総合医療センター整形外科部長も務める。08年からサッカーJ2・ファジアーノ岡山のチームドクター。日本体育協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会専門医・スポーツ医・リウマチ医など。52歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年09月03日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ