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(5)早期手術が望ましい急性胆のう炎-東京ガイドラインより 岡山市立市民病院外科部長 佃和憲

佃和憲外科部長

 今回は最も卑近な手術の対象である胆のうについてお話します。国内のほぼすべての外科手術はNational Clinical Database(NCD)に登録されており、2016年には約13万件の胆のう摘出術が行われています。以前は最も身近であった虫垂切除術(いわゆる盲腸手術)は約6万件であり、現在では、皆さんが最も受ける可能性の高い腹部外科手術は胆のうの手術であるといえるでしょう。

 50歳以上では、腹痛の原因として、虫垂炎より胆のう炎の方が多いことが知られており、高齢者が増えていることも胆のうの手術が身近になった原因と考えられます。現在は腹腔(ふくくう)鏡下胆のう摘出術という、手術創の小さい、体に負担の少ない手術が一般的になっていることはご承知の通りです。

 胆のうは、総胆管という管を通じて肝臓や十二指腸とつながり、肝臓で作られる胆汁(1日に500~1000ミリリットル)を貯蔵し、濃縮する働きをもっています。食事によって十二指腸に食物が入ると、胆のうが収縮して胆汁を十二指腸に流し、膵臓(すいぞう)から出てくる消化液とともに食物の消化・吸収を手助けしています。

 胆汁の成分であるコレステロールや胆汁色素(ビリルビン)が析出して結晶になったものが胆石です。この胆石が原因となることが多いのですが、胆のうが細菌に感染したり、膵液が逆流したりすることで胆のう炎が起こります。

 急性胆のう炎は、急な腹痛、嘔吐(おうと)で発症し、さらに発熱、食欲不振などの症状がみられます。重症化した場合は、血圧が下がる、息苦しい、意識がなくなる―など他の臓器の障害もみられるようになります。特に高齢者の場合、腹痛を訴えずに、他の病気が疑われて救急搬送されてくることがあります。

 急性胆のう炎はこのような症状や検査結果を総合して診断しますが、重症度に応じて治療が行われます。治療法については「東京ガイドライン(急性胆管炎・胆嚢(たんのう)炎診療ガイドライン)」という国際的な診療ガイドラインに提示されています。

 絶食にして点滴や抗生剤、痛み止めの投与などの初期治療が行われますが、軽症および中等症例の場合には早期に腹腔鏡下胆のう摘出術を行うことが望ましいとされています。胆のう炎の発症3日以内では浮腫が中心で手術が容易な状態にありますが、時間の経過とともに胆のうの壁が腐ったり、固くなったり(線維化)という変化が起こるため、手術が難しくなってきます。また、手術を行わない場合は抗生剤の投与期間が長くなるなどの問題があり、早期に手術した方が有利と考えられます。

 重症例の場合には、全身を管理しながら胆のうドレナージ(局所麻酔下に体の表面から胆のう内にチューブを入れてうみを吸引する方法。あるいは内視鏡で総胆管から逆向きにチューブを入れる方法)を行うこととなっていましたが、2018年版ガイドラインでは、条件によっては早期に腹腔鏡下胆のう摘出術を行うことを提案しており、治療として早期手術が選択されることが増えています。

 高齢者の腹痛や発熱などの原因として、急性胆のう炎が起こっている可能性があり、より早期に手術を行うことで、重症化せず、回復することができます。症状が出たら速やかに専門病院を受診されることをお勧めします。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 つくだ・かずのり 岡山大学医学部卒。消化器外科・一般外科を専攻。岡山大学および米国ペンシルベニア大学でがんの遺伝子関連の研究を行った。岡山赤十字病院、岡山大学病院で消化器外科、腫瘍外科の診療を行い、昨年10月から現職。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年09月18日 更新)

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