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災害医療マネジメント学の展望は 岡山大院講座の中尾教授に聞く

中尾博之教授

 岡山大は2018年度、大学院医歯薬学総合研究科に全国初となる「災害医療マネジメント学講座」を開設し、研究活動をスタートさせた。大規模災害時、自治体機能がまひしても医療活動を継続していく方策を探るほか、急性期医療から中長期的な保健・予防まで包括的にマネジメントできる人材育成にも取り組む。講座を率いる中尾博之教授に研究内容や展望を聞いた。

 ―現場経験を踏まえ、災害医療マネジメントの必要性を強く訴えている。

 神戸大病院(神戸市)に勤めていた2005年、尼崎JR脱線事故が起こった。当初は「踏み切りで電車が車と衝突した」との情報で、けが人は少ないと判断した私たちの出動は遅れた。正確な情報が入っていればと思うと悔しい。医師の技術がどれだけ優れていても、各方面と連携が十分でなければできることは限られる。医療機関や自治体、企業が普段からどのようにネットワークを構築していれば、大規模災害時に効果的な医療が提供できるのか。多くの自治体が被災し機能を失った11年の東日本大震災など、過去の災害も参考にしながらエビデンス(科学的根拠)に基づいた研究を進めたい。

 ―西日本豪雨で岡山県内での医療の提供、連携はどうだったか。

 豪雨後、程なく公的機関やボランティア団体などが連携した「倉敷地域災害保健復興連絡会議」が倉敷市保健所に設置された。国派遣の医療チームや地元の医療機関、行政などが毎日、情報共有し、支援先の調整や患者情報のスムーズな引き継ぎに当たった。うまくいったケースだと思う。

 ―課題は。

 倉敷市真備町地区などで活動した災害派遣医療チーム(DMAT)のメンバーは、医療活動に十分専念できない状況だったという。現地までの交通手段や自身の食事の手配をしながら患者にたどり着いた。海外では医療者が診療のみに集中できるよう、外部との調整や情報収集など分野ごとにサポートする。そういうチームがあれば、医師が仕事に集中でき、助けられる命は増えるだろう。

 ―南海トラフ巨大地震の発生も懸念されている。

 政府の地震調査委員会による予測では、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに襲われる可能性は岡山市で43%。一方、横浜市80%、静岡市70%など、岡山以上に甚大な被害が出ると予想されている地域は多い。よりひどい地域に支援が集中し、岡山県には県外から十分な支援が得られない可能性もある。だからこそ、自分たちでできる限りの備えが求められる。講座では住民の防災意識の向上についての方策も研究し、広く発信していきたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年11月18日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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