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第7回 心不全―高齢社会の医療問題―

上村史朗教授

玉田智子特任講師

西原洋浩会長

河原和枝教授

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の第7回が11月10日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「心不全―高齢社会の医療問題―」。心臓の機能が低下する「心不全」について、専門医らが症状や原因、検査法を解説するとともに、内科・外科的な治療法や、減塩など食事療法のポイントを紹介した。かかりつけ医による指導の下、症状の悪化を防ぐために生活管理を徹底することも訴えた。

心不全とはどんな病気?
川崎医科大学循環器内科学教授・川崎医科大学附属病院院長補佐・循環器内科部長
上村史朗


 心臓は握り拳ほどの大きさで、全身の内臓に血液を送るポンプの役割を果たしています。成人の場合、心臓の拍動は24時間で約10万回に上り、送り出す血液の量は約7200リットル、約10トン分に達します。この心臓の働きが何らかの原因で悪くなり、血液を十分に送り出せなくなった状態を「心不全」と呼びます。

 心不全は病名ではありません。心臓を動かす筋肉(心筋)に血液を送る冠動脈が狭くなり、血液が流れにくくなる「狭心症」や冠動脈が詰まる「心筋梗塞」、血液の逆流を防ぐための心臓の弁がうまく働かなくなる「心臓弁膜症」、拍動のリズムが不規則になる「不整脈」、心筋そのものに異常が生じる「心筋症」…。これら心臓に関係するさまざまな病気や高血圧が最後にたどり着く“終着点”が心不全です。

 血液の循環がうまくいかなくなるので、階段を上ると息切れや動悸(どうき)がする▽手足が冷たい▽尿量が減る▽むくみ▽疲れやすい▽睡眠時に息苦しくなる―などの症状が起こります。進行すれば、寝起きすることも難しくなってしまいますので、早期発見と早期治療が重要です。気になる人は、同じ年代の健康な友達と一緒に歩いてみることをお勧めします。友達について行けないようなら、心臓の働きが悪くなっている可能性があります。

 心不全では、心臓の働きを低下させたもともとの原因を突き止め、その病気を治療することが必要になります。例えば、狭心症や心筋梗塞が原因であれば、手足の動脈からカテーテルという細い管を入れ、狭くなった血管を広げてやるカテーテル治療や、詰まった血管の迂回(うかい)路を作ってやる冠動脈バイパス術の手術が広く行われています。

 心不全は高齢者に多いことが知られています。高齢化が進む日本では、今後ますます心不全を患う人が増えると予測されます。調子が悪いと感じたら「年のせい」で片付けてしまわず、まずはかかりつけ医に相談してください。

心不全の心電図・エコー検査
川崎医科大学循環器内科学特任講師・川崎医科大学附属病院循環器内科医長
玉田智子


 心不全を治療する上で重要なのが、原因となっている病気を特定することです。診断時にはさまざまな検査が行われます。その中から心電図検査と心エコー検査について紹介します。

 心臓が規則正しく拍動しているかどうかを調べるのが心電図検査です。ほとんどの人が健康診断などで1度は受けたことがあると思います。心臓は拍動時に微量の電気を発生するので、それを記録します。特に、拍動のリズムが不規則になる「不整脈」の診断には欠かせない検査です。

 不整脈の中でも心房細動は、心臓にある部屋の一つの心房がずっと小刻みに震えているような状態で、心不全の原因になるほか、血栓ができやすいことで知られています。その血栓が血流に乗って脳に運ばれると、脳の血管が詰まる脳梗塞を発症します。心房細動を原因とする脳梗塞は重症化しやすく、寝たきりを招いたり、回復しても重い後遺症が残ったりします。

 心エコー検査は、超音波を使って心臓の大きさや動き、血液の流れ、弁の状態などを調べるものです。動いている心臓をリアルタイムで観察できます。心筋梗塞や心筋症、心不全、心臓弁膜症をはじめ、高血圧が長く続いたことで心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」などの診断で活用します。

 今まで平気だった坂道や階段で息切れがする。足がむくむ。動悸がある。脈が飛んでいる感じがする…。いつもと違う症状が現れたら、早めにかかりつけ医に相談し、心不全の検査を受けるようにしましょう。

心不全の地域での取り組み
倉敷市連合医師会会長・西原内科循環器科理事長・院長
西原洋浩


 心不全には、心筋梗塞などによって急激に心臓の働きが悪くなる「急性心不全」と、心筋症や高血圧などが原因で長い間にわたって心不全の状態が続く「慢性心不全」があります。

 急性心不全は胸の痛みなど強い症状を伴い、命を失う恐れもあります。「普通じゃない」と思ったらすぐに救急車を呼んでください。治療を早く始めることで大事に至らなくて済みます。

 慢性心不全は通常、徐々に進行するため、症状の悪化に気づかないことが少なくありません。重症化すれば入院が必要になります。

 いずれにしても、心臓の機能はいったん悪くなったら元には戻りません。入院して治療しても、退院後の心臓は入院前より悪い状態です。高齢の患者さんは入退院を繰り返す傾向にあり、そのたびに心臓も悪くなっていきます。

 そうならないためには、再入院が必要になるほど症状を悪化させないよう、かかりつけ医の指導の下、自宅で適切に病気をコントロールすることが欠かせません。医師の指示通りの服薬を守るとともに、減塩に気をつけた食事や禁煙といった自己管理が重要です。定期的に診察も受け、症状を確認するようにしてください。

心不全患者の栄養管理
川崎医療福祉大学臨床栄養学科特任教授 河原和枝


 心不全の患者さんの栄養管理のポイントは、「減塩」と「低栄養状態防止」の2点です。

 減塩に関しては、「心不全診療ガイドライン2017」で塩分摂取の目標が1日6グラム未満とされていますが、厚生労働省の調査では、日本人は平均約10グラムの塩分を取っているのが現状です。国立循環器病研究センター(大阪府)のチェックシート=表参照=を使えば、普段の食生活のどこで塩分を取り過ぎる傾向にあるかが分かります。

 手軽に減塩を実現するこつとしては、汁物と漬物を控える▽麺と調理パンの回数を減らす▽食塩の多い食品を控える▽料理に使う調味料を減らす―ことなどが挙げられます。

 最近の加工食品には栄養成分が表示されています。買い物をする際にはまず栄養成分を確認し、塩分含有量が少ないものを選ぶようにしましょう。

 調理の仕方や食べ方も大切です。例えばみそ汁なら、具を多くして汁の量を半分以下にしたり、みそを減らして牛乳でこくを出したりすることで塩分摂取を抑えられます。汁わんを小さいものに替えるだけでも減塩につながります。調味料の代わりに香辛料や香味野菜を使う、たれはかけずに付けて食べるといった工夫もできるでしょう。

 高齢の心不全の患者さんは、食事量が減って十分な栄養を確保できなくなる恐れがあります。低栄養状態が続くと筋力が落ちる「サルコペニア」を招き、要介護状態や寝たきりになりかねません。

 食欲がなく、ご飯とみそ汁だけで済ませるという場合でも、ご飯におかかやしらすを添えたり、食後にバナナを食べたりするなど、少量でも高エネルギー、高たんぱく質になるよう気をつけましょう。間食でゆで卵やヨーグルトを取るのもお勧めです。

 バランスよくエネルギーと栄養素を取れ、しかも簡単にできるお好み焼き=イラスト参照=を考案しましたので、作ってみてください。最近は患者さん向けの宅配食もあります。うまく活用してほしいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年12月03日 更新)

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