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(3)フレイルを予防して元気な毎日を 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

 フレイル(虚弱)は加齢に伴い、筋力や認知機能など心身の機能が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態です。健康な状態と要介護状態の中間点で、生活機能障害に移行する危険性があります(「フレイルの概念」参照)。早期に適切な介入や支援を行うことによって、生活機能を元気な時の状態に戻すことが期待できます。

 フレイルには、筋肉量が減少するサルコペニアや、運動器に障害が起こるロコモティブシンドロームなどの「身体的フレイル」、認知機能低下やうつ状態などの「心理・認知的フレイル」、外出頻度の減少や閉じこもりなどの「社会的フレイル」があります。

 これらの多面的な要因のいくつかが積み重なって、要介護状態に進んでいきます。フレイルを持つ高齢者は介護施設への入所や医療機関への入院へ移行したり、転倒・骨折、認知症を発症したりするなど、生活機能障害や健康障害を認めやすくなることが知られています。

 (1)体重減少(2)筋力低下(3)疲労感(4)歩行速度(5)身体活動―の5項目の指標のうち、3項目以上を満たした場合にフレイルと評価します。この基準は、フレイルの中でも特に「身体的フレイル」をみています。

 フレイルを持つ高齢者の割合は地域住民の10%前後と考えられています。その割合は加齢とともに増加し、男性と比べて女性に多いとされています。慢性の病気で外来通院中の高齢者では、さらに割合は高くなります。

 フレイルになる要因として、食欲低下や運動不足といった生活習慣に関わる因子▽疼痛(とうつう)、難聴、多剤服薬、ビタミンDの不足などの身体因子▽意欲低下、認知機能低下、抑うつなどの心理的・認知的因子▽独居、家族との接触頻度の低下などの環境・社会的因子―があるほか、心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病も挙げられます。

 発症・進行を予防するため、運動療法、栄養・食事療法による介入が有効です。運動療法としては、歩行、筋肉に繰り返し負荷をかけるレジスタンス運動、バランストレーニングなどが推奨されます。特に栄養改善療法との併用は効果的です。栄養・食事療法では、摂取するエネルギー量と栄養バランスを確保すること、摂食・嚥下(えんげ)機能を維持することが重要です。

 生活習慣病などの発症と強く関連するメタボリックシンドロームを予防するため、中年の頃から減量を意識するよう促され、高齢になっても、体重を少しでも落とさなければと考える方は少なくありません。メタボを中心に行われてきたこれまでの研究では、肥満の人、やせの人は、肥満度を示すBMI(体重キログラムを身長メートルの2乗で割った指数)が正常の体格の人に比べ生存率が低いとされています。

 一方、最近、高齢者を対象にした8年間の生存率を追跡調査した結果では、肥満の人とBMIが正常の人との間に生存率の差はないことが明らかにされました(「高齢者の体格と生存率」参照)。肥満の高齢者に対し、減量するための食事療法は本当に必要なのか、フレイル予防の一つの課題として議論されています。

 高度肥満の方を除いて、肥満の高齢者はどの時期までカロリー制限を行うのか、いつからフレイル予防のためにしっかりとカロリーを摂取するべきなのか、はっきりした見解がないのが現状です。前期高齢者(75歳未満)はその切り替え時期に当たると思われますが、個人差が大きいので、対応は慎重に考えなければなりません。

 社会の急速な高齢化に伴って、高齢者のライフスタイルは変化してきています。社会的背景などを視野に入れ、今後、フレイルを防ぐ健全な生活習慣を考えていく必要があります。詳しくは連載の次回でご説明します。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分県立大分上野丘高校、川崎医科大学卒、川崎医科大学大学院修了、同大学講師、准教授、川崎医療福祉大学教授を経て2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年12月03日 更新)

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