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乳がんの“サブタイプ”って? 岡山赤十字病院 「顔つき」「性格」で治療分かれる

吉富誠二部長

村上茂樹副院長

 遺伝性乳がんには生まれながらの「性質」がある。一方、乳がんの多くを占める遺伝しないがんでも、遺伝子の変異によって、後天的にさまざまな「顔つき」や「性格」を持つ。近年、がん細胞の遺伝子を調べ、それぞれの顔つきや性格に合わせて治療することが欠かせなくなっている。

 直接遺伝子を検査したり、免疫学の手法で遺伝子がつくるタンパク質を調べたりして、乳がん細胞の特徴を五つのタイプに大別することができる=表参照。「サブタイプ」と呼ばれるこの分類は、乳がんの「人種」のようなものだ。

 他のがんと同様、乳がんの治療でも、手術、薬物療法、放射線治療が3本柱になる。岡山赤十字病院乳腺・内分泌外科の吉富誠二部長は「サブタイプが特に重要になるのは薬物療法を行う時」と説明する。

 乳がんの病期は、しこりを確認できないほど極めて早期の「0期」、しこりの大きさが2センチ以下にとどまっている「I期」から、次第に腫瘍が大きくなり、骨、肺、肝臓、脳など乳房から離れた臓器にも転移した「IV期」まで、5段階に分けられる。

 薬物療法は早期がんを手術した後、再発・転移を防ぐために行われる。また、ある程度進行した病期で、そのままでは手術が困難な場合でも、薬物療法で腫瘍が小さくなれば、手術できるようになる。

 「がん細胞の顔つきや性格が異なれば、当然、効く薬も違う。サブタイプを見極めることで、その人に最も適した薬を使うことができる」と吉富部長は強調する。

 サブタイプは、がん細胞が「エストロゲン」「プロゲステロン」という2種類の女性ホルモンの影響を受けて増殖するかどうか▽増殖に関与するタンパク質「HER2(ハーツ―)」が過剰に発生しているかどうか▽がん細胞の増殖能力を示すタンパク質「Ki(ケーアイ)67」が多いかどうか―という三つの要素で決まる。病変組織を採取して検査し、10日から2週間ほどで分かる。

 サブタイプの「顔つき」によって、薬物治療の選択が変わる。日本人の乳がんでは、約70%が女性ホルモンが増殖に深く関わる「ルミナールタイプ」とされる。このタイプはホルモンの働きを弱めるホルモン剤治療がよく効く。

 しかし、このタイプの中でも、「顔つき」は優しげなのに「性格」は意地悪で、どんどんがん細胞が増殖するものもいる。その場合、ホルモン療法に加えて抗がん剤治療を行う。

 HER2が陽性の患者も約20%いる。こちらは「ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)」など、HER2を狙い撃ちする分子標的薬の治療効果が高く、抗がん剤と組み合わせる。

 2種類の女性ホルモンの影響を受けず、HER2も陰性の乳がんは「トリプルネガティブ」と呼ばれ、10~15%を占める。こわもての「顔つき」をしていて、ホルモン療法や分子標的薬はあまり効果が期待できない。それでも「性格」が悪くなければ、抗がん剤治療が効く場合がある。

 岡山赤十字病院は今年4月、乳腺・内分泌外科や放射線科、形成外科といった各診療科の枠を超えて連携する「乳腺センター」を開設し、チーム医療体制を強化した。センター長を務める吉富部長は患者を対象とした相談・勉強会を年4回のペースで開き、療養生活をサポートしている。

 乳がんをサブタイプで分類する時代になっても、患者それぞれの体力や併存疾患などの個人差を考慮し、治療を進めることが大切だ。吉富部長は「一人一人の希望やQOL(生活の質)を踏まえ、一緒になって納得できる治療を考えていきたい」という。

 ■岡山赤十字病院(岡山市北区青江、086―222―8811) 乳腺外来の受付時間は火、木曜日の午後0時半~3時半。一般外来でも火、水、金曜日午前中は乳腺疾患に対応している(受付時間は午前8時~11時半)。

おおもと病院 根治目指すには手術を

 がんゲノム医療が普及すれば、メスを使う手術は過去のものになってしまうのだろうか。

 「そんなことはない」。年間約140件の乳がん手術を手掛けるおおもと病院の村上茂樹副院長は、自信を持って否定する。

 根治を目指すには、やはり「取れるものは取り、薬や放射線で目に見えない微小転移をたたく」のが基本だ。そのためにも、早期発見、早期治療の重要性は変わらないと言う。

 手術の方法は大きく2通り。がん病巣周辺を切除しながら乳房をできるだけ残す「乳房温存手術」と、病巣ごと乳房の大部分を切り取る「乳房切除術」に分かれる。

 温存手術は原則、大きさが3センチ以下のがんが対象となる。温存した乳房内に微小ながん細胞が残ってしまう可能性があり、再発を予防する目的で放射線治療が欠かせない。がんの広がりが大きい場合は切除術を行う。適応をきちんと見極めれば、どちらの手術を選んでも生存率は変わらないとされる。

 一時は見栄えのよい温存手術が主流になっていたが、最近は全国的に切除術を選択する患者が増えている。患者自身が再発のリスクを心配することや、切除術と同時にシリコンなどの人工乳房を使って再建する手術が進歩し、2013年から一部が保険適用となったことも、その傾向を後押ししている。おおもと病院の場合も、昨年は温存手術と切除術の割合がほぼ半々だった。

 女性は約11人に1人が生涯のうちに乳がんにかかる。早期発見できた場合の5年生存率は95%以上の高さにもかかわらず、年間約1万4000人が亡くなる。

 村上副院長は、定期的に乳がん検診を受診するとともに、イラストの方法を参考に自己検診に取り組むよう訴える。

 「日ごろから自分で乳房を触って確かめてほしい。『いつもと違うな』と思ったら、すぐに医療機関に相談して」と呼び掛けている。

 ■おおもと病院(岡山市北区大元、086―241―6888) 診療時間は月~土曜日の午前9時~正午(受付時間は11時まで)。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年12月03日 更新)

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