(4)フレイルを予防する食事・運動療法 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

 フレイル(虚弱)とは、加齢に伴って運動機能や認知機能などが低下し、活動低下を来した状態で、健康な状態と介護が必要になる状態との中間点にあたります。

 他の人の手を借りずに日常生活が営める「健康寿命」は、平均寿命に比べ、男性で約9歳、女性で約12歳短くなっています。健やかに老後を過ごすには、フレイルを予防し、健康寿命を延ばすことが必要です。早期にフレイルを見つけ、適切な対策を行うことで、以前の健康な状態に戻ることができます。

 前回(昨年12月3日付)お話ししたように、高齢になってもメタボリックシンドローム(メタボ)の対策として、食事量を控えめにすることを心がけている方も多いと思います。しかし、高齢になってメタボ対策を続けると、フレイルを招くことになります。前期高齢者(65~74歳)の頃から、メタボ対策でなくフレイル対策に取り組んでいく必要があります。

 フレイルは身体的、認知的および社会的な要因で起こってきます。身体的フレイルは日常生活を見直すことで予防できます。中心となるのは「栄養管理」と「運動」です。慢性疾患、運動器疾患などを持っている場合は、その治療を行うことがフレイルの予防につながります。

 栄養管理では、まず、バランスの取れた食事を3食しっかり食べることが大切です。70歳以上の高齢者が1日に必要なエネルギー量は1600~2200キロカロリーです。

 二つ目はタンパク質をしっかりとることです。筋肉量、筋力の保持に重要なタンパク質の摂取量としては、男性で1日約60グラム、女性で約50グラムが目安です。低栄養の状態やフレイルがある方はさらに多く摂取する必要があります。タンパク質の中でもロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を多く含む食品(鶏の胸肉、豚ロース、カツオ、マグロなど)をとるよう心がけましょう=表参照

 三つ目は体内のビタミンDを保持することです。ビタミンDは腸管からのカルシウムの吸収を高め、骨や筋肉の健康を維持します。サケ、サンマ、ブリなどの魚類や、シイタケ、シメジなどのキノコ類は、ビタミンDを多く含みます。積極的に食事に取り入れましょう。また、30分程度日光浴すれば、1日に必要なビタミンDを皮膚でつくることができます。

 運動は個人に合ったものから始め、無理しない程度に続けることが大切です。筋肉量、筋力を増強すれば、体のバランスがよくなり、転倒防止になります。ジョギング、水泳、エアロビクスなどの有酸素運動は、若い頃から続けている場合は問題ありませんが、高齢になってから始めるときには、かかりつけ医と相談し、整形外科疾患、脳血管疾患、心疾患、肝臓や腎機能障害などがないことを確かめましょう。

 自宅でも簡単にでき、筋力アップにつながるレジスタンス運動がお勧めです。椅子に座り、膝を伸ばしたり屈曲したりする運動や、爪先を腰の高さまで上げて足首を回す運動、椅子の後ろに立って背もたれを持ち、かかとを上げ下げする運動は実践しやすいと思います。

 また、スクワット運動は椅子の背もたれや机を持ち、両足を肩幅に開いて立ちます。かかとが浮かないようにお尻をまっすぐ落とします。ポイントは背筋を伸ばし、膝が前に出ないようにして、太ももに力が入っていることを意識することです=図1参照

 上体起こしは両膝を立ててあおむけに寝ます。両手を頭の後ろに組んでおへそを見るように頭を持ち上げます=図2参照。いずれの運動も10回は繰り返しましょう。

 フレイルに進行する前に、栄養管理や運動などの効果的な対策を行うことが、人生100年時代を元気に生き生きと暮らすための秘訣(ひけつ)です。

     ◇

 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分県立大分上野丘高校、川崎医科大学卒、川崎医科大学大学院修了、同大学講師、准教授、川崎医療福祉大学教授を経て2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。

(2019年01月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

関連病院

PAGE TOP