(1)前立腺がんに対する陽子線治療 津山中央病院放射線科医長放射線治療センター副センター長 脇隆博

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脇隆博副センター長

 2016年の全国がん登録によると、男性のがんの中で、前立腺がんは胃がんに次いで2番目に多いがんです。患者数は急激に増加しており、近いうちに男性で最も罹患(りかん)率の高いがんになるとみられます。

 前立腺がんの治療は、手術、放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤治療などがあります。手術には開腹手術、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、ロボット手術などがあり、放射線治療にもエックス線治療、陽子線治療、小線源治療などがあります。各医療機関がそれぞれの特徴を出しながら治療しています。

 今回は当院で2016年7月から行っている「前立腺がんに対する陽子線治療」についてご紹介します。

 ■現状と適応疾患

 当院は今年2月1日時点で約120症例に対してこの治療を行っており、NCCN(米国の主要がんセンターの連携組織)の定めるリスク別にみると、高~超高リスク群が半数を占め、残りは中リスク群と低リスク群がほぼ同数ずつとなっています。低リスク群の場合は陽子線治療のみで完了しますが、中リスク群以上ではホルモン療法を併用しています。

 保険適応となる病態は、「限局性および局所進行前立腺がん(転移を有するものを除く)」です。従って、リンパ節転移や遠隔転移のある症例は適応外となります。高額療養費制度を利用すると、患者さんの窓口負担は実質的に8万円から20数万円程度となります。治療回数は28回、治療期間は6週間程度の場合が多いです。

 ■より高精度・より安全な治療

 陽子線照射前の準備として、前立腺内に金マーカーを留置することを推奨しています。埋め込んだ金マーカーを目印にして照射することで、より精度の高い照射が可能となります(図1参照)。マーカー留置のために2泊3日の入院が必要ですが、1回あたりの照射線量を高くすることができるため、留置しない場合より治療期間を約2週間短くすることが可能となりました。

 陽子線治療には3種類の照射方法があり、従来法→積層原体法→スキャニング法―の順に進化しています。当院はまず従来法から開始しましたが、18年5月からスキャニング法に移行しました。

 現在は、スキャニング法を応用した「強度変調陽子線治療」(Intensity modulated proton therapy=IMPT)を導入しています(図2参照)。従来法と比べ、前立腺周囲にある正常臓器の被ばくを大幅に低減しながら、前立腺にはしっかり照射できるというメリットがあり、より理想に近い治療が可能となっています。

 今後、1回あたりの照射線量をさらに上げ、治療期間をさらに短くしたいと考えています。そのために18年12月からゲルスペーサー留置(図3参照)を開始しました。金マーカーを留置する際に、前立腺と直腸の間に吸収性ゲルを注入することで、直腸の被ばくをさらに低減させることが可能となり、より安全な治療が提供できるようになりました。

 将来的には、現在6週間程度の治療期間をさらに1~2週間短縮することを検討しており、治療を受けられる患者さんにとって、よりメリットのある治療になると考えています。

 ■おわりに

 今後、前立腺がんの患者数はさらに増加すると予想されています。国立がん研究センターがん情報サービス=平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度―最新推計と将来予測=によると、2030~34年の男性10万人あたりの前立腺がん罹患率は102・2に達し、全部位のがんのうち20%超を占めると予測されています。

 保険診療としての陽子線治療の発展・普及が当院に課せられた責務であると自覚し、引き続き、岡山県北のみならず岡山県全体、さらには中四国地域の患者さんに最善のがん治療を提供できるよう、日々努めていきたいと思っています。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)

 わき・たかひろ 香川県立高松高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院放射線科、兵庫県立粒子線医療センター放射線科を経て2015年より現職。医学博士。日本放射線腫瘍学会および日本医学放射線学会放射線治療専門医。がん治療認定医。

(2019年02月18日 更新)

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