(3)切らずに治す大動脈瘤治療 心臓病センター榊原病院 上席副院長 吉鷹秀範

大動脈瘤の治療に使われるさまざまなステントグラフト

ステントグラフト治療のイメージ。黒矢印部分の腹部大動脈瘤に対し、白矢印で表すステントグラフトを大動脈内に留置し、破裂を防ぐ

手術台とエックス線撮影装置を組み合わせたハイブリッド手術室。カテーテルを使う大動脈瘤ステントグラフト治療には必須の設備となっている

吉鷹秀範上席副院長

 ■大動脈瘤とは

 大動脈瘤は心臓から全身に血液を運ぶ大動脈がこぶ状に膨らみ、破裂すれば命に関わる疾患です。原因はほとんどが血管の老化現象、すなわち動脈硬化と考えられています。

 いったん大動脈瘤ができてしまうと、自然には縮小せず、有効な薬もありません。ゆっくりと拡大し、突然破裂を来してしまい、生命に危機をもたらします。ほとんどの場合、破裂するまで症状がなく、突然死の原因となります。この疾患で突然死された著名人も多く、高齢者の孤独死の原因の一つとも考えられています。

 大動脈瘤は「みぞおち」のあたりにできる腹部大動脈瘤と、胸の中にできる胸部大動脈瘤に分類されます。通常の大動脈の直径は2~3センチ程度です。大動脈瘤ができて直径6センチを超えてくると破裂しやすいため、5センチ程度になると治療を開始するのが一般的です。

 ■大動脈瘤の治療法

 以前は体を大きく切開して、膨らんだ大動脈瘤を切り取って人工血管を縫い付ける「人工血管置換手術」が主体となっていました。

 2007年から、カテーテル治療(ステントグラフト治療)が登場しました。ステントグラフトとは、バネ状の金属がついた人工血管で、直径6ミリ程度まで折りたたむことにより、細い筒状の管(カテーテル)内に収納できます。このカテーテルを大動脈内に誘導して、ステントグラフトを血管内に留置し、大動脈瘤の破裂を予防します。

 心臓病センター榊原病院は、中四国では最も早く2007年にステントグラフト治療を導入しました。この10年間に約3400例の大動脈瘤治療を行い、そのうち約1500例がステントグラフト治療です。

 近年、ステントグラフトの技術はかなり進歩し、現在は皮膚をほぼ切開せずにカテーテルを挿入しています。治療時間はおよそ1時間。腹部大動脈瘤であれば、国内最短の1泊2日の入院で治療が可能です。文字通り「切らない」治療となってきました。

 ステントグラフト治療は胸や腹を切らないため、従来の外科手術より体の負担がかなり軽く、早期に退院し、社会復帰できます。しかし、こぶを切り取らないので、治療後に大動脈瘤が拡大再発することがあります。従って、全ての患者さんにステントグラフト治療が適切なわけではなく、開胸あるいは開腹治療の方が安全、確実な場合もあります。患者さんそれぞれの病状に合わせて、5年後、10年後を見据えた治療計画を立てることが重要です。

 ■最後に

 大動脈瘤を患う危険因子には、喫煙、高血圧などがありますが、特に年齢が大きな因子と考えられています。腹部大動脈瘤については、80歳以上の男性はおよそ10人に1人(9・2%)、女性は20人に1人(5・7%)がこの病気にかかっているとの調査結果があります。

 自覚症状がないため、ほとんどは検診などによりたまたま発見されます。CTを撮影すれば大動脈瘤はほぼ100%診断可能です。75歳を超えた方は、がんだけでなく、大動脈瘤のスクリーニングを兼ねた検診を受けることをお勧めします。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 よしたか・ひでのり 香川県立高松高校、香川大学医学部卒、同大学院修了。循環器内科医としてトレーニングを受け、1993年、心臓血管外科医として国立循環器病センターに赴任。96年から心臓病センター榊原病院に勤務。心臓血管外科指導医、ステントグラフト指導医、TAVI指導医。

(2019年03月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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