(4)注意すべき不整脈 心臓病センター榊原病院 循環器内科部長 伴場主一

伴場主一循環器内科部長

 「脈」には続くものという意味があり、「山脈」や「人脈」はつながりを表現しています。体中を巡っている血管も「動脈」「静脈」と分けて名付けられています。医療現場で脈といえば、血管から感じられる心臓の拍動であり、圧力(血圧)や数(脈拍数)や乱れが問題となります。

 不整脈と聞くと脈の乱れを想像されるかもしれませんが、乱れだけでなく、脈の数が少ない(毎分50回未満)ことも、多い(同100回以上)ことも不整脈と呼びます。

 不整脈はさまざまな専門の病名に分類できますが、簡単には理解できません。また、怖いものと怖くないもの、治療が必要なものと不要のもの、急に起こるものと持続しているもの、心房の不整脈と心室の不整脈―などいろいろな種類や表現の仕方があります。そういった点からも、不整脈という病気は一般の方に分かりにくいのだと思います。

 最も怖い不整脈の状態は突然死です。突然死の原因になる不整脈は心室細動と呼び、心室の筋肉が急に痙攣(けいれん)してしまいます。その状態が続くと確実に死亡しますが、早期にAED(自動体外式除細動器)や心臓マッサージなどの処置を行えば、後遺症なく回復できます。

 健康な人が突然死することは非常に少ないです。ただし、急性心筋梗塞や重度の心不全では、不整脈で急死することがあるのも事実です。その点からみれば、突然死は予防できるものが多く、予防できる不整脈もあります。

 不整脈などの心臓・血管の病気は生活習慣病としての一面があり、心臓や血管の負担がたまった状態で発生しやすいといえます。予防のため、具体的には、喫煙、飲酒習慣、肥満、運動不足、高血圧、糖尿病などの改善が大切です。

 突然死の前に予兆がある場合もあります。失神や急に目の前が真っ暗になる「眼前暗黒感」という状態です。心臓が不整脈で機能不全になり、3~10秒間停止すると、まるで停電で電気製品が止まる時のように、予兆なく意識を失います。このような症状がある人は、脳だけでなく、心臓もチェックしてもらう方がよいことが多いです。

 心臓の痙攣がひどい場合は植え込み型除細動器(AEDの植え込み型)、脈が少なくなりすぎる場合はペースメーカーによる治療方法があります。また、検査を受けても失神の原因が分からない場合、植え込み型心電計を使って心電図を記録し、継続的に不整脈をモニタリングすることも可能です。

 動悸(どうき)は不整脈と同義と言ってよいほど、不整脈に伴う自覚症状を表現したものですが、動悸の症状だけで心臓が急に止まることは少ないです。ただ、皆さんが動悸や脈の乱れを感じると、大きな不安を覚えるのは当然といえます。

 一方、不整脈になると自覚症状があり、すぐに分かると考えるのは間違いです。人間の感覚は体外に向かって発達していますので、実は自覚症状がないことの方が多いです。

 脈をとる習慣のない方も、なにか胸がおかしいと感じたら、脈をチェックすることをお勧めします。特に60歳を超えると、体重計だけでなく血圧計を家庭に備え、健康をチェックするのが良いと思います。血圧計には、上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)と脈拍数が表示されます。脈の異常に早期に気付くことがあります。

 脈の異常は心電図で簡単に診断できることが多いので、一度、専門病院の受診を考えてください。心房細動などを治療すれば、脳梗塞の予防や早期治療にもつながります。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 ばんば・きみかず 岡山大学医学部卒。倉敷中央病院、岡山大学病院、高知医療センター勤務などを経て、2009年10月より心臓病センター榊原病院に勤務。総合内科専門医、循環器専門医、学会認定不整脈専門医。

(2019年03月18日 更新)

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