庄原赤十字病院の産科再開1年余 近隣機関と連携、中山間モデルに

庄原赤十字病院で新生児の健康状態をチェックする助産師

 庄原市西本町の庄原赤十字病院の産科が昨年4月に13年ぶりに再開し、1年余。昨年度は97人(うち市内在住は71人)が生まれた。常勤医は1人だが、市をはじめ日赤グループや近隣の医療機関との連携、助産師の業務マニュアル作成などで安全管理に徹底して取り組み、中山間地域の周産期医療のモデルケースとして根付きつつある。

 「地元で産みたかったし、近いと何かと安心。産科再開は本当にうれしかった」

 昨年11月14日に同病院で第3子となる次男を出産した作業療法士(31)=同市=は満面の笑みをみせる。長男長女の時は三次市の病院に通ったが自宅から1時間以上かかるため「陣痛がきてから間に合うのか」と不安だったという。

 再開後の病院は病室も新しく、出産直後、助産師が入浴や仮眠時に子どもの面倒を見てくれることもあった。「良かったと周囲に話している。4人目があれば、またここで産みたい」

 

■ 安全管理を徹底


 現在、病室は5室7床。三次市立三次中央病院(東酒屋町)から赴任したベテラン産婦人科医の赤木武文医師(65)が常勤し、非常勤医3人、助産師8人の体制で昼夜を問わない分娩(ぶんべん)と、週5日の外来に当たる。非常勤医3人は広島大病院(広島市南区)、近隣の庄原同仁病院(庄原市川北町)から来てもらい、助産師のうち3人はグループの岡山赤十字病院(岡山市北区)などから派遣を受けている。

 妊婦と新生児を扱うため、安全な分娩体制の確保は最優先事項。帝王切開の場合は必ず三次中央病院に応援を頼み、合併症や切迫早産で集中治療が必要なときは専門の医療機関を紹介するなどして対応する。少人数体制維持に向けた負担軽減の意味もあり、他医療機関との連携は不可欠となっている。

 助産師の業務では産科休止による空白期間や他病院からの派遣もあるため、庄原赤十字病院独自のマニュアルを作成し意思統一を徹底している。「勤務地により微妙に違う部分をすり合わせ、互いの経験も持ち寄り、一から作り上げた」と寺本辰美看護副部長(55)。若手が夜勤の場合、ベテランが自宅待機することや新生児の体調管理方法などを細かく明記。心肺蘇生や帝王切開の模擬研修も繰り返し行っている。

 こうした医療体制の構築に加え、「可能な限り受け入れたい」という赤木医師の思いもあり、昨年度の同病院での出生数は想定の1・5倍となった。中島浩一郎院長(64)は「地域のために頑張ろうという医師らの献身的な心意気で成り立っている。今の形を維持するため最大限の努力を続けていきたい」と話す。

 

■ 市も積極支援


 医師不足により同病院の産科が休止となったのは2005年4月。広島県内では公立や公的病院での再開は数例しかなく、過疎高齢化が進む地域とあって、庄原市も積極的に支援を続ける。昨年度までの3年間で超音波診断装置や母子の集中監視システムの導入などに計8600万円の予算を付け、19年度からは産婦健康診査の助成事業も始めた。近くには小児科診療所と病児・病後児保育施設を備えた複合施設「こども未来広場」(西本町)を昨年7月にオープン。子育て環境を整えることで少子化に歯止めを掛け、市内で出産する若者世代を増やそうと力を入れている。

 市生活福祉部の兼森博夫部長(59)は「産科再開は市にとって悲願だった。今後も病院と協力しながら子どもを安心して生み、育てられるまちとして発展していきたい」と明るい未来を願った。

(2019年06月11日 更新)

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