(2)最先端の糖尿病治療 岡山済生会総合病院糖尿病センター副センター長 利根淳仁

利根淳仁副センター長

 人工知能(AI)や自動車の自動運転機能、ICT(情報通信技術)の発展、スマートフォンの高性能化など、テクノロジーの進歩によって生活が便利になるニュースを日々耳にしますが、糖尿病の分野でも新しい技術が次々と導入され、近年、その治療はめざましい進化を遂げています。今回は最先端の糖尿病治療についてご紹介します。

■精度とQOLを両立、インスリンポンプ療法

 インスリンポンプは設定した量のインスリンを自動で注入する機器です。食事内容や運動に合わせて、ボタン一つで自由自在にインスリンを注入することができます。従来はペン型のインスリン注入器で1日複数回注射する必要があった患者も、インスリンポンプ療法では3日に1回のセット交換のみでより精密なインスリン注入が可能になりました(図1)。生活の質(QOL)も大幅に向上します。

 ただし、インスリンポンプ療法は主に1型糖尿病患者や妊娠計画中・妊娠中の患者、1日4~5回のインスリン注射でも血糖管理が困難な患者に対して用いられることが多く、全ての糖尿病患者に適応があるわけではありません。

■リアルタイムCGMで血糖を“見える化”

 従来は指先を針で刺して血糖測定し、その瞬間の血糖値しか分かりませんでしたが、持続血糖測定(CGM:Continuous Glucose Monitoring)というシステムでは、皮下組織のブドウ糖濃度を連続的に測定し、リアルタイムにグラフとして表示されます(図2)。今まで“点”として見ていた血糖値の変動を“線”としてとらえ、リアルな血糖値の流れを把握できるようになりました。

 このCGMには、センサーからインスリンポンプにデータを送るSAP(Sensor Augmented Pump)と、センサーに読み取り器をかざした時だけ血糖値が表示される、より簡便なFGM(Flash Glucose Monitoring)というシステムがあります(写真1)。

 前者は高血糖や低血糖になりそうな時にアラート(音・振動)で通知するような設定も可能です。加えて、最近ではCGMデータを患者さんのモバイル機器(スマートフォンなど)に送信し、さらにそのデータをクラウド上で管理して、家族や医療従事者と共有することもできます。一人暮らしの高齢患者さんや幼稚園に通っている1型糖尿病のお子さんを家族や医療従事者が見守ることができる新しいシステムで、まさに“糖尿病診療のICT化”といえます。

■時代は“見える化”から“自動化”へ

 血糖の“見える化”は糖尿病診療に大きな進歩をもたらしましたが、2018年春には低血糖になりそうな時に自動的にインスリン注入を停止する機能を搭載した新型のインスリンポンプが登場しました(写真2)。これにより、低血糖の約8割が回避できるようになりました。さらに米国では、この低血糖を回避するシステムに加えて、高血糖の時に自動的に注入量を増やして目標血糖に近づけるシステム(closed―loopシステム)も導入され、臨床現場で活用されています。自動車の領域で研究が進んでいる自動運転装置と同様に、糖尿病の世界も“自動化”に向けて大きく進化しています。

 ※岡山済生会総合病院では「インスリンポンプ外来」(木曜日、担当・利根)を開設し、患者さんの病態に応じて最先端の治療を提供しています。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 とね・あつひと 駒場東邦高校、岡山大学医学部卒。岡山赤十字病院、国立病院機構岡山医療センター、岡山大学病院を経て、2018年から岡山済生会総合病院に勤務。日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医。

(2019年06月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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