(4)大腸癌について 岡山市立市民病院 外科部長 佃和憲

佃和憲外科部長

 「大腸癌(がん)」は結腸癌と直腸癌に分けられますが、合算した発生数(2016年、上皮内癌を除く)は15万8千人と悪性腫瘍の中で最多で、胃癌、肺癌、乳癌と続いています。男性と女性で分けた場合はそれぞれ3位、2位の発生数です。また、死亡者数(17年)は5万1千人と肺癌に次いで2番目に多くなっています。

 ■標準治療

 大腸癌は進行度によりステージ0~4に分けられ=表1、その治療法も治癒率も全く異なります。大腸癌研究会が、大腸癌治療を評価し治療ガイドラインを作成しています。

 ステージ0~3は手術による切除(ステージ0~1の一部は内視鏡による切除も可)、そのうちステージ3と再発の危険性の高いステージ2は術後に補助の薬物療法が適応です。ステージ4は大腸癌と転移巣がともに取り切れる場合は手術、それ以外では薬物療法や放射線などの治療が選択されます。

 大腸癌の治療は手術による切除が中心であり、取りきれないものや手術後の再発に対して、抗癌剤をはじめとした薬物治療が使われていると言えます。

 ガイドラインにおいて推奨される治療を標準治療といいます。持病や年齢などが原因で標準治療が行えない患者さんもおられますが、現在ある治療法のなかで最も生存の確率が高い証拠のあるものを標準治療といいます。

 ■手術治療

 大腸癌の手術はリンパ節を含めた腸管の切除です。最近では腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が行われていますが、切除する大腸やリンパ節の範囲は開腹手術と同じです。小さい傷で同じ手術ができ、痛みが少なく、内臓に対する影響も少ないため手術からの回復が早く、現在では腹腔鏡手術が主軸となっています。

 ステージ4の中でも肝転移や肺転移は完全に取り切れる場合は手術が考慮されます。最近では、切除が困難な転移があっても、薬物治療で転移巣を縮小させると切除が可能となることがあり、「Conversion therapy(コンバージョン・セラピー)」と呼んでいます。薬物療法の進歩と相まって、増えることが期待されます。

 ■薬物療法

 大腸癌で用いられる薬物療法は大きく分けて(殺細胞性)抗癌薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬です。ガイドラインに示されている殺細胞性抗癌剤は9剤(同系統剤をまとめると5種類)、分子標的治療薬は6剤(同3種)、免疫チェックポイント阻害薬は1剤です。単独で用いる場合もありますが、いくつかを組み合わせて使用することが多くなっています。さらに個々の癌の遺伝子データを基に治療する「Precision medicine(プレシジョン・メディシン=精密医療)」という方向に進もうとしています。

 抗癌剤に関しては、副作用が心配と言われる患者さんが多くおられますが、最近では支持療法とよばれる副作用を抑える薬物をあらかじめ使用しながら、安全に治療が受けられるように努めています。

 昨年末より大腸癌でも免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダ)が使用できるようになりましたが、特定の遺伝子変異がある大腸癌が対象で、恩恵を受けられる方は15%程度です。

 ■まとめ

 ところで大腸癌の治療は進歩しているのでしょうか。表2に大腸癌研究会の集計を一部提示しています。手術後の5年生存率は全体に成績が改善しています。以前は結腸癌に比して成績の悪かった直腸癌はほぼ同じになっています。現在では薬物療法などの治療法が進歩し、ステージ3~4において成績が向上していることが期待されます。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 つくだ・かずのり 岡山大学医学部卒。消化器外科・一般外科を専攻。岡山大学および米国ペンシルベニア大学でがんの遺伝子関連の研究を行った。岡山赤十字病院、岡山大学病院で消化器外科、腫瘍外科の診療を行い、2017年10月から現職。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医など。

(2019年09月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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