(8)「からだ」だけでなく「こころ」も大事に 岡山済生会外来センター病院 糖尿病看護外来 慢性疾患看護専門看護師看護師長心得 佐藤真理子

佐藤真理子看護師長心得

■糖尿病は生活や生き方が深く関わる病気

 糖尿病は単に血糖値が高いだけの病気ではなく、その人が今まで大事に積み上げてきた生活や生き方が深く関わる病気です。そのため糖尿病を治療し、療養していく過程で生活や生き方を変えざるを得ない状況になることがあります。

 それは、たとえ糖尿病を良くし、合併症を予防するためとはいえ、容易なことではありません。その過程の中で生じるさまざまな葛藤や悩みが糖尿病を抱える人の心身や生活の負担となり、「うまくできない、つらい、情けない、悔しい」といった思いを抱えることになります。その思いを抱えながら生きることが、こころの病(うつ病など)の発症の引き金になったり、回復を困難にしたりしていることがあります。

■こころからのサインに耳を傾ける

 血糖値は血液検査で、血圧は血圧計での測定で知ることができます。しかし、「こころからのサイン」(葛藤、悩み、心配)=表=は血液や画像検査ではわかりません。そのため、こころからのサインに耳を傾けることが大事になります。そのサインはしぐさ、身だしなみ、声のトーン(口調)、語り、からだからの不快な症状から発信されます。

 「自分が全て悪い。自業自得」「先生の言われることができない悪い患者」「病人って思われたくなくて必死だった」「私の悲しみなんて誰もわかってくれない」「何をやってもうまくいかない。何もかもが嫌になる」といった、こころからのサインが発信されているときには、一人で抱え込まず家族、友人、医療者などに助けを求め、頼ることが大事です。そして、サインに応じた治療やケアを受けることが必要です。

■専門家とともに糖尿病と歩む

 専門家(医療者)は、今、糖尿病を抱えている人を苦しめている症状や状況は何かに思いを巡らせ、どのような方法ならばこころとからだの両方を気遣うことができるかを一緒に考え、提案しながら療養の仕方を見いだす手助けをします。その際、その人の状況(心身の状態、生活や仕事の状況)に応じた“頑張りすぎない・無理をしすぎない”療養をその人が選択できるような手助けもします。

 良くなっている部分(検査値だけではなく表情や語りの変化)をどんなに小さな変化であっても心をこめて言葉で伝え、分かち合うことで「このままこの療養を続けてみよう」という力を引き出せるように手助けします。反対に悪くなっているときには、悪い状況の中でもできる対処やケアを一緒に検討し、焦らず、今できることでこころとからだを大事にしましょうと支えます。このように専門家は糖尿病を抱えている人とともに歩みながら回復を助けます。

■悩みやつらさを抱える家族も気遣う

 家族も「どのように接すればよいのか」「本当によくなるのだろうか」「調子が悪そうな様子をみるのがつらい」「頭ではわかっているつもりだけど、つい感情的になってしまって本人を責めてしまう」と悩み、苦しんでいます。一番近くにいて、一番心配している家族だからこそ感情的になったり、つらくなったりします。家族もこころとからだが疲れ果ててしまわないように、こころからのサインに耳を傾けて抱え込まないようにすることが大事です。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)。連載は今回で終わりです。

 さとう・まりこ 兵庫県立大学大学院看護学研究科博士前期過程修了後、2010年より岡山済生会総合病院、19年より岡山済生会外来センター病院に勤務。10年に糖尿病看護外来を開設し、糖尿病を抱える人への看護に携わっている。

(2019年10月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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