(4)腰痛 岡山中央病院整形外科科長 中原啓行

 今回は腰痛に対する治療方法をご紹介します。

 腰痛は整形外科を受診する最も多い愁訴であり、40歳以上で約2800万人が腰痛を有していると推定されています。腰痛はさまざまな要因で起きますが、内臓疾患やがんの脊椎転移、脊椎の感染、大動脈解離などの血管性病変による腰痛は「Red Flags」(レッドフラッグ=危険な兆候を表す症状)として特に注意が必要です。

 安静にしていても強い痛みがある場合や発熱を伴う場合などは早急な精査を要します。下肢の神経症状やRed Flagsのない腰痛は非特異的腰痛とされ、疼痛(とうつう)に応じた活動性の維持と痛み止めの使用や運動療法などによりほとんどが1カ月程度で改善するため、詳しい画像検査などは必要ありません。

 改善しない場合、CTやMRIなどの画像検査をして、その結果と症状が合致すれば椎間板性腰痛や椎間関節性腰痛、筋・筋膜性腰痛、仙腸関節障害などの診断となり、それぞれに合った治療を行っていきます。症状の原因と考えられる部位にブロック注射を行うことでより診断の精度を高めることができ、近年では80%近くの腰痛が診断可能と言われています。

 腰痛が3カ月以上続いた場合、慢性腰痛と言います。長期間続く腰痛は不安やストレスなどの心因的要因の関与が大きいとされており、整形外科的な治療だけでは改善しない場合も多くあります。また神経症状を伴わない腰痛の場合、以前はあまり有効な低侵襲手術方法はなかったため、脊椎の不安定性が原因であることが明らかなら、最後の手段として脊椎固定術を行うしかありませんでした。

 しかし、近年の脊椎低侵襲治療の発展により、腰痛に対しての低侵襲手術治療も有効性が認められるようになってきています。2種類の手術治療をご紹介します。

 (1)腰椎椎間板性腰痛に対する椎間板焼灼(しょうしゃく)術

 椎間板性腰痛の中でも椎間板後方線維輪の損傷が腰痛の原因とはっきりした場合のみ適応になります。診断には椎間板造影と椎間板ブロックが必須で、造影剤注入による疼痛の再現性、造影剤の損傷部位への漏出、ブロックによる疼痛消失を確認する必要があります。

 手術は局所麻酔で腰椎椎間板ヘルニア手術に用いる7ミリ径の脊椎内視鏡を経椎間孔的に椎間板内に挿入し、ラジオ波バイポーラーで病変部を焼灼します。近県では徳島大学病院でよく行われています。

 (2)経仙骨的脊柱管形成術(硬膜外腔癒着剥離術)

 腰椎椎間板症、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症や脊椎手術の術後疼痛などで、神経の癒着が原因と考えられる症例が適応となります。

 2018年4月から硬膜外腔癒着剥離術として保険適用となった手術方法で、まだ施行している施設は限られますが、近隣では川崎医科大学の中西准教授が積極的に導入しています。

 局所麻酔下に、お尻の少し上にある仙骨裂孔という脊柱管につながる隙間から細いカテーテルを硬膜外に挿入し、造影剤を入れ癒着部位を確認します。カテーテルの先端を左右に細かく動かしたり、生理食塩水を注入したりすることで病変部の癒着を剥離します。炎症を抑える効果のあるステロイドと局所麻酔薬を病変部に注入し、カテーテルを抜去して終了します。

 いずれもまだ新しい治療方法で、施行できる施設は限られますが、難治性の腰痛に対する低侵襲手術治療として期待されています。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 なかはら・ひろゆき 高知医科大学卒。岡山大学附属病院、福山医療センター、岩国医療センター、岡山赤十字病院などを経て2016年から岡山中央病院整形外科科長。11年にThe Scripps Research Instituteに留学。専門は脊椎・脊髄外科、外傷。日本整形外科学会整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄病外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。医学博士。

(2020年02月17日 更新)

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