(5)脊椎の再生治療 岡山中央病院整形外科科長 中原啓行

 前回は腰痛に対する低侵襲治療として2種類の手術治療をご紹介しました。今回も腰痛に対する治療法の一つである椎間板再生治療についてご紹介します。

 PRP療法という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。PRPは「Platelet―Rich―Plasma」の略で、日本語では「多血小板血漿(けっしょう)」と言います。欧米ではかなり広まっていて、有名スポーツ選手が受けたこともあり、日本でも一般に知られるようになってきている治療法です。

 自分の血液を数十ミリリットル採取し、特殊なキットを用いて遠心分離することにより、血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出します。こうして作製した自己PRPの中には成長因子が豊富に含まれ、自分の体の傷んだ部分に注射すると、その部分の組織修復が促進され、早期治癒や痛みの軽減効果をもたらします。

 変形性膝関節症や変形性股関節症などの関節痛に対しては、変形が進行する前に施行すると有効なことが多いとされています。ヒアルロン酸などを関節内に注射するのと同様に、PRPを注射するだけの簡便な治療であり、広く行われるようになりました。プロ野球投手の肘の靭帯(じんたい)損傷など、スポーツ選手の腱(けん)や靭帯損傷の治療にも導入されています。

 椎間板変性に対しては、まだ全国的に施行例が少なく、組織再生に有効だという明らかなエビデンス(証拠)はありません。しかし、椎間板変性に起因する椎間板性腰痛に対しては、有効であるとする論文がいくつか出ています。

 当院では昨年から、このPRPを用いたPFC―FD療法(PFC=血小板由来因子濃縮物)を導入しています。この治療は通常のPRP療法と違って、病院やクリニックではなく、厳格に管理された専門の施設(セルソース再生医療センター)で作製します。細胞を除去するとともに、PRPに含まれる成長因子だけを取り出して濃縮し、フリーズドライ(凍結乾燥)したものを使います。PFC―FDには組織再生を促進する多数の成長因子が通常のPRPの2倍以上含まれ、高い効果が期待できます。

 まず患者さん自身の血液を約50ミリリットル採取します。この血液を専門の施設に送って3週間でPFC―FDが作製され、病院に戻ってきます。これを患部に注射することで組織の自然治癒力が活性化し、椎間板や関節などの自然治癒力の低い組織の修復を促します。

 患者さん自身の血液から成長因子を濃縮して作っているオーダーメード治療なので、アレルギー反応などのリスクも少なく、作製工程は厳格に管理され、感染のリスクも通常の関節注射と大差ありません。常温でも安定して約6カ月間長期保存することができ、2回に分けて注射することも可能です。

 治療は保険適応外のため自費になりますが、変形の少ない変形性膝関節症でなかなか痛みが取れない患者さん▽腱・靭帯の炎症などでなかなか治らない患者さん▽慢性的な椎間板性腰痛の患者さん―など、長期間にわたって日常生活の障害となり、また、手術を受けるしか痛みを取る方法がないとされていた患者さんにとって、新たな治療の選択肢の一つになっています。

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 岡山中央病院(086―252―3221)。連載は今回で終わりです。

 なかはら・ひろゆき 高知医科大学卒。岡山大学附属病院、福山医療センター、岩国医療センター、岡山赤十字病院などを経て2016年から岡山中央病院整形外科科長。11年にThe Scripps Research Instituteに留学。専門は脊椎・脊髄外科、外傷。日本整形外科学会整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄病外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。医学博士。

(2020年03月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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