(7)嚥下サポートチーム 倉敷中央病院耳鼻咽喉科副医長 岩永健

造影剤入りの食事が通過する様子をエックス線透視装置を用いて観察する検査。嚥下機能を評価して誤嚥や窒息の予防につなげる

岩永健副医長

 「口から食べる」という行為は、私たちが日常当たり前に行っていることです。普段の生活で、一食一食を食べることができるありがたさを実感することは多くないかもしれません。

 しかし、足の筋力が落ちると早く走れなくなるのと同じように、食べるためには口やのどを動かす筋力が重要です。これらも筋肉の運動であり、年齢や体力などの影響を受けることが知られています。食べる力が落ちることを「嚥下(えんげ)機能低下」と呼び、それによって何らかの体の症状を引き起こすようなことがあれば「嚥下障害」と呼びます。

 嚥下障害によって食べ物や唾液などを「誤嚥(ごえん)」することで肺炎を引き起こすことがあり、誤嚥性肺炎と呼ばれます。2018年の死因別死亡率をみると、肺炎は第5位となっています。また、お正月などにお餅をのどに詰まらせる高齢者の事故が毎年、全国でニュースになるように、不慮の事故での死亡数では「窒息」が交通事故を上回っています。特に70歳以上で増加する傾向にあります。

 超高齢社会の中で、当院でも嚥下機能低下を抱えた患者さんが多く入院されています。入院生活をより安全に過ごしていただけるよう、私たち嚥下サポートチームは、入院中の患者さんに対し、嚥下に関する適切な評価と指導を行うことを目的に発足しました。

 誤嚥性肺炎で入院している患者さんであれば、食べることなどに問題を抱えていると想像できます。しかし、普段からむせながら食事をしている患者さんが全く別の病気で入院した場合や、入院前に問題なくご飯が食べられていたのに、大腿骨(だいたいこつ)骨折などで入院してからむせるようになったご高齢の患者さんなどでは、周囲がすぐには嚥下機能の低下に気付かない可能性があります。

 そういった患者さんを見逃さないために、入院時にいくつかの問診と口腔内の診察を行い、リスクがあると判断された場合には少量の水を飲んでもらう簡単な検査を行います。もし異常があれば、チームに連絡してもらうような仕組みを構築しました。

 嚥下障害が疑われる場合には、耳鼻咽喉科医師が嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査などの専門的な検査を行い、診断をつけることができます。結果を踏まえて誤嚥や窒息の予防につなげていくといった支援を病棟で行うことが可能となりました。

 また、食べるためには口の中が清潔に保たれていることや、食べ物をかみやすい歯がそろっていることが重要です。入れ歯を使用している場合も、ずれやすくなっていないかなどを評価することが必要です。チームのメンバーには歯科医師や歯科衛生士も含まれており、必要に応じてすぐに口の中の問題を相談できる体制が整っています。

 嚥下障害には全人的アプローチが重要だと考えています。私たちのチームには、脳神経外科医やリハビリテーション科医、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、放射線技師なども在籍しており、それぞれの専門性を生かして多職種でアプローチしていけるのが当院のチームの強みだと思います。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 いわなが・けん 広島大学附属福山高校、筑波大学医学専門学群医学類卒。聖隷浜松病院、浜松市リハビリテーション病院などを経て2017年4月から現職。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。

(2020年03月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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