(3)「お疲れさま」のあなたに漢方 岡山西大寺病院内科医長 池田示真子

池田示真子内科医長

■心身一如

 漢方医学と西洋医学は今まで常に対比的に語られてきました=図1。漢方医学は心と身体は一体であるとする「心身一如(しんしんいちにょ)」を前提に哲学的な治療体系を組み立てています。西洋医学では、「検査値にも画像検査にも異常が現れない症状」を訴えられる患者さんに対しては、「不定愁訴(ふていしゅうそ)」というレッテルをはられ、病気ではないとみなされてきました。私が漢方に足を踏み入れた理由もまさに、目の前の患者さんの「不定愁訴」をどうやったらなくしてあげられるかという一途な思いからでした。

■「お疲れさま」の時代にこそ漢方

 現代人は情報に追われスピード社会の中で心も体も疲れきっています。漢方でいうところの気虚、血虚です=図2。体内に不足したものを補う漢方薬を総称して「補剤」といいますが、不足した気や血を補うことで、「不定愁訴」を取り除き、「お疲れさま」のあなたを癒やします。補剤の中から人参(にんじん)と黄耆(おうぎ)が配合された参耆(じんぎ)剤といわれるものを紹介します=表1。疲労と倦怠(けんたい)を主目標として胃腸機能が低下し、心身ともに衰えた慢性病患者が訴える各種の症状に用いられます。

■患者さんとともに歩む

 漢方外来初診の患者さんの中には、漢方は副作用がないから飲みたいといわれる方がいらっしゃいますが、漢方にも副作用があることは知っておかねばなりません=表2。私の外来に来られる患者さんたちは、教育をして主治医任せにせず、自分の状態に合わせて手持ちの漢方を使い分けることができるため、初期治療が可能になり大きく体調を崩すことが少なくなっています。

 呼吸器疾患や女性特有の症状や心療内科の分野も漢方の得意分野です。ありがたいことに漢方薬の効果も副作用も、医学的に証明する薬理作用の解明がどんどん進み、医学部のカリキュラムにも漢方医学が含まれ、大学病院の先生方がふつうに処方される時代になっています。

 小児から高齢者まで男性も女性も年齢も性別も関係なく、そのかたに必要な処方がなされたとき患者さんのあふれるような笑顔に出会えます。一人一人が自分らしい生き方を求め、西洋医学と東洋医学の特性を生かし、その垣根を越えたときにこそ、真の患者さん本位の医学になるのではないでしょうか。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 いけだ・しまこ 東京女子医科大学卒。岡山大学病院消化器内科、倉敷中央病院、岡山市立せのお病院、西大寺中央病院を経て2019年9月より現職。漢方は湯原淳良先生に師事。日本東洋医学学会漢方専門医、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、インフェクションコントロールドクター。

(2020年03月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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