(1)気分障害 慈圭病院副院長 難波多鶴子

難波多鶴子副院長

「気分障害」とは気分(感情)の変化を主症状とする病気の総称

 精神科の病気の多彩で複雑な症状をとらえるときに、それが精神活動のどの領域の症状なのか整理して考えます。例えば統合失調症では「知覚」の領域の症状である幻聴や、「思考」の領域の症状である妄想といった症状がみられます。「気分障害」は、文字通り「気分(もしくは感情)」の変化が主症状となる病気をまとめてさす病名です。

「うつ病」と「双極性障害(そううつ病)」~代表的な気分障害

 気分障害に分類される代表的な病気に、「うつ病」と「双極性障害(そううつ病)」があります。「うつ病」は、ゆううつな気分を主症状とするうつ状態が2週間以上続く病気です。一生のうちにうつ病を経験する人が、日本人では10~15人に1人くらいの割合でみられます。

 うつ病では、表1に示すように、ゆううつな気分以外にも不眠や身体の症状などさまざまな症状が出ますし、中にはゆううつ気分よりも身体の症状のほうがめだつタイプの方もあります。経過としては2~3カ月で完全に治ってしまう方もおられますし、年余にわたる方もおられます。

 「双極性障害」では、うつ病と同じようなうつ状態の時期と、うつとは正反対のそう状態の時期が出現する病気です。その両方の時期以外は普通の状態に戻るのが一般的です。表2にそう状態の際の症状を示します。そう状態の初期や軽症の場合は、気分がよく、仕事や勉強がいつも以上にはかどったりするので、気づかれていないことが多々あります。しかし、そう状態が激しくなると、怒りっぽくなったり、気が散ってまとまった活動ができなくなってきます。人間関係が破綻したり、浪費のため経済的に破綻する人もでてきます。

「うつ病」と「双極性うつ」~症状だけでは区別が難しい

 「うつ病」も「双極性障害」も薬物療法による治療は重要ですが、その内容が異なります。ですから両者の区別は重要です。はっきりとしたそう状態の時期がつかめていれば、診断の大きな決め手になりますが、実は双極性障害の約3分の2の方が、うつ状態で発症するので、うつ状態で初めて受診された場合は、うつ病と双極性障害のうつ(双極性うつ)の見分けは困難です。双極性うつでは、過眠や食欲の亢進(こうしん)・体重の増加・ゆううつさよりは活動性の低下がめだつ、再発が多い、などの特徴があると言われていますが、絶対的ではありません。

我慢しないで早めの受診を

 重症のうつ状態では自殺の危険がありますし、そう状態では人間関係のトラブルや経済面での破綻をきたす場合があります。そこまでいかなくても、病気の症状のために自分らしい生活が失われてしまいます。我慢しないで早めに受診し、適切な治療を受けられることをお勧めします。

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 慈圭病院(086―262―1191)

 なんば・たづこ 岡山大学医学部卒。同付属病院神経精神医学教室に入局後、岡山赤十字病院神経内科、山陽病院、岡山大学付属病院精神神経科、岡山県立岡山病院(現岡山精神科医療センター)に勤務。1997年5月より慈圭病院に勤務。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医。

(2020年05月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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