(2)行動しへき(しへき行動症) 慈圭病院病棟医長 田中増郎

田中増郎病棟医長

 統合型リゾート法案(以下、IR法)の成立前後から、ギャンブル障害という病気が広く報道されるようになりました。今回は、その行動しへきについて説明します。

 昔からギャンブルで身持ちを崩してしまった人たちは多くいました。さまざまな古文書にもそういった記載があります。彼らは、意志が弱いとか精神的に未熟な人間とみなされてきました。しかし、病気であることがわかり、1977年に世界保健機関(WHO)に「病的賭博」という病名がつけられました。これを機に徐々に認識が広まり、日本でも2000年頃より専門に治療を行う施設が増えています。

 近年、この病的賭博はギャンブル障害と呼ばれるようになりました。ギャンブル障害の大まかな定義は、ギャンブル(賭博)によって生活の障害や苦痛があり、自分自身がやめた方がいいとわかっているにもかかわらずやめることができない状態、とされています。借金を繰り返してまでギャンブルをしてしまう、という行動を耳にすることがあるかと思いますが、これはまさにこの病気の症状です。はた目ではわかりづらく、なかなか周りからの理解が得られないことが特徴の一つです。

 19年には「物質使用症群またはしへき行動症群」の一部として、ゲーム障害もギャンブル障害も同じ精神科の病気としてWHOに認められました。ゲーム障害は、ゲームをすることに自制が利かなくなり、生活に支障をきたしてしまった状態となります。

 ギャンブル障害の生涯有病率は、17年の調査で3・6%と推計されており、諸外国の中では比較的高い数値となっています。さらに、日本国内にカジノを作ることができるIR法が成立したため、今後この病気にかかる人が増える可能性があると懸念されています。

 一方、ゲーム障害は17年の全国調査で中高生の間の93万人が該当すると言われています。

 しへき行動症の一般的な治療としては、精神療法という精神科医による面接や、集団療法などがあり、新たに治療プログラムが開発されています。ギャンブル障害の場合は、ギャンブラーズ・アノニマス(GA)という自助グループ(同じ病気にかかり、その病気から回復するために集まっている会)への参加も有効とされています。

 アルコール依存症や薬物依存症など物質使用障害を抱える患者の多くは人を信頼することが苦手で、孤独感を感じやすい傾向にあると言われています。ギャンブル障害も同じような精神状態を抱えている場合が多いようです。ゲーム障害についても同様で、コミュニケーションの方法を変えると改善するなどといった事例があります。

 ギャンブル障害やゲーム障害といった行動しへきのように、一見病気に見えない厄介で深刻な病気も存在します。お困りの際は医療機関や精神保健福祉センターにご相談ください。

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 慈圭病院(086―262―1191)

 たなか・ますお 山口大学医学部卒。2019年11月より慈圭病院に勤務。専門は物質使用障害と行動嗜癖。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医。所属学会は日本精神神経学会、日本アルコールアディクション医学会(評議員)、日本アルコール関連問題学会(評議員)、日本若手精神科医の会(監事)、こころのバリアフリー研究会、国際アルコール医学生物学会など。

(2020年06月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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